日本の“お家芸”とされた白物家電に元気がない。反転攻勢に向け、変わろうとするメーカーの取り組みと課題を探った。
独ベルリンで9月に開かれた家電見本市「IFA2014」。パナソニックのブースでは、欧州攻略に投入するドラム式洗濯機がひときわ目立っていた。
資本提携したスロベニアのゴレーネ社と共同開発した初めての成果で、設計や金型はパナソニックが担当し、製造ラインやデザインはゴレーネに委ねた。
白一色の角張った外形に丸い回転式の調節つまみや液晶モニターを付けて現地で好まれるデザイン。洗濯機は住宅のビルトイン(備え付け)のように利用されることが多いことを想定し、欧州の規格に準拠したサイズにした。乾燥機は洗濯機と別に用意することが多い欧州の事情を考慮して乾燥機能の搭載を見送り、独自の省エネ技術・エコナビは「オートケア」の名称で採用。パナソニックの津賀一宏社長は「日本だけではできない商品が生まれてきている」と自画自賛した。
欧州向けの共同開発はオーブンやIHヒーターなど調理家電へ広げる方針。白物家電を担当する本間哲朗役員は「まずはデザイン。それから省エネ性能。欧州で評価される下地はできつつある」と強調する。
インドネシアでシャープ製の冷蔵庫が大ヒットしている。商品名は「King Samurai(キング侍)」。ドアの取っ手は日本刀を意識したデザインで、「カタナハンドル」として人気だ。
シャープは昨年9月、インドネシアで洗濯機と冷蔵庫の新工場を稼働し、それを機に商品企画や設計まで現地に任せた。キング侍シリーズは以前からのヒットだが、家電の機能やデザインの現地化を進める。
例えばインドネシアは水道のない地域も少なくなく、電力供給が不安定。そこで浄水装置のついた2層式洗濯機や、蓄冷材を搭載し停電時も食品を冷やし続ける冷蔵庫を今年売り出した。
この蓄冷材は、本社の研究開発本部が東南アジアのために開発し、初めて商品に採用された。冷蔵温度帯で凍る蓄冷材は可燃性が一般的だが、燃えにくい蓄冷材を開発。木造建築が多く火事も少なくない現地の安全性を確保した。地域事情に合わせた商品開発が実りつつある。
さらに消費者の安心感のためローカルフィット(地域最適)活動を展開しており、シャープの高橋興三社長は「他社が行かない集落にも出向いて部品代だけで修理する。そうやってファンを作る」と説明する。
デジタルAV家電は、薄型テレビやブルーレイなど新規格を全世界に広め、同じ製品を大量生産して一気に売り切るビジネスモデルだ。これに対し、白物家電は地域ごとの住宅事情や暮らしに合わせた商品が求められるため、総じて地場メーカーが強い。
とくに欧州では、クルマでもフェラーリやポルシェなどデザイン性に優れたブランドが多いように、家電の分野もデザイン重視の特性が顕著だ。
一般的に性能や機能を追えば、デザイン性が下がる傾向があるといわれる。デザイン性を後回しにしてでも、日本のメーカーは機能優先の開発にこだわってきた。その結果、欧州でM&A(合併・買収)を進め、いち早くデザイン性の強化とともに製造拠点を構えたサムスン電子やLG電子など韓国勢に海外市場の攻略で後れを取った。
パナソニックは現在、中国で製造した製品を欧州へ運んでいるが、ようやくゴレーネの拠点を活用できるようになった。本間役員は「欧州や中国、アジアそれぞれで『こうする』と考えてから商品を作るよう開発の体系を変える」と巻き返しを誓う。