お湯につかって百まで数えたり、シャンプーで変な髪形にして笑い合ったり。親と一緒に楽しんだお風呂の記憶がある人も多いはず。みなさんはいつまで一緒に入っていましたか。お風呂の子離れ親離れ、特に女の子のパパにとって気になる問題でもあるようです。
千葉県市川市の会社員下村英生さん(48)は、小1の長女(7)と一緒にお風呂に入るのが楽しみだ。共働きの妻の帰りが遅い日は積極的に一緒に入る。学校であった出来事や友達のことなど、湯船につかりながら知ることも多い。
そんな娘とのお風呂タイムも、遠からず終わる日が来てしまう――。下村さんの目下の気がかりだ。娘は自分で体や髪も洗えるようになった。「『一人で入る』と言われるまでは一緒に入りたい。その日が来るのは寂しいですね」
■9歳で半数に
男性の育児で、真っ先に挙がるのが「お風呂に入れる」ことだ。慌ただしい就寝前、ママが家事をしている間にパパがお風呂に、と分担する家庭も。そして、お風呂は、テレビ抜き、ママ抜きで子どもと向き合える貴重なコミュニケーションの場になっている。
みんないつごろまでお風呂に入っているのだろう。「風呂文化研究会」(事務局・東京ガス)のまとめでは、父と娘の場合、9歳で一緒に入っている親子は約 半数、11歳で大きく減って1割程度に、中学に入る13歳では約1%に。母親と息子の場合は、11歳で2割以下に、13歳で約1%になる。
教育心理学が専門の桜美林大学・山口創教授(47)も、思春期を迎え性の成熟が促される11歳ぐらいがお風呂自立の時期と考える。自分の部屋が欲しいな どとプライベートな空間や時間を求めるのは健全な発達。その独立したい気持ちを尊重することが適切な「子離れ親離れ」につながるという。
一方、思春期以降も親子でお風呂に入り続けた場合、父娘では娘は社会性が高くなり、母息子では息子は男性らしさが減退、いわゆる草食系男子になる傾向が 見受けられるという。因果関係ははっきりしないとしながらも、娘の場合、心理的距離が母親よりも遠い父親とスキンシップをとった経験から、社会に出た後も 他人と協調していけるのではないかと分析。息子の場合は、母親という異性を異性として見られていないため、女性に対する男性としての本能が薄れるのではな いかという。
高校卒業まで父親と入っていた千葉県の大学2年の女性(19)は、反抗期だった中学時代、父と口論することもあったが、それでもお風呂は一緒だった。「進路や将来の仕事など、会話は楽しく、勉強になりました」と話す。
■欧米「非常識」
海外ではどうか。外務省は海外安全ホームページで注意を促している。事例として「先進国に暮らす邦人一家。現地校に通う娘が作文に『お父さんとお風呂に 入るのが楽しみ』と書いたところ、学校から警察に通報、父親が性的虐待の疑いで逮捕された」と紹介。欧米では風呂場はプライバシーが強く保たれるべき場所 で、非常識な行為とみなされると注意する。
米アトランタの小中学校に通った会社員鈴木佑依子さん(34)は、小4のころまで父と入っていたが学校では言わなかった。「米国では『父は仕事で不在』という家族観はない。父親と一緒の時間が長いので、日本のようなお風呂での関係が重要でないのかも」
いつかやってくる「卒業」。しかし、湯船ではぐくんだ関係はその後も意味があるようだ。
東京都小平市の会社員、中川直人さん(44)は娘が小学生になったころ、「一人で入る」と言われた。でも、小5の今もソファでは隣に座るし、母親より先に相談をされることもある。「関係に変化は感じない。大事なのは2人で話す場や時間を作ること」と話す。
娘の成長につれ、ちょっと寂しげな夫を見守るのは、小1の娘がいる佐々木純子さん(41)。「父と娘は一度は離れるけれど、通らねばならない道。私もそ うでした」。そして子煩悩な夫にエールを送る。「成長して、また心理的な距離が縮まる時が来るはず。メソメソしないで大丈夫」(佐々木洋輔)
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〈今月のWORD〉銭湯での年齢制限
国の管理要領によると、公衆浴場(銭湯)では「おおむね10歳以上の男女を混浴させないこと」とある。ただ、管理要領は強制力がない助言で、実際は都道府県条例によって混浴制限年齢はばらばら。北海道は12歳、岩手は11歳、愛知は8歳、京都は7歳までなど。