1カ月後に開幕が迫るパリ五輪で、日米など各国が選手村に独自にエアコンを設ける方針を相次いで打ち出している。大会組織委員会が「環境にやさしい五輪」にするとして、冷房敷設を見送ったためだ。各国がバラバラに対応することで、「かえって温室効果ガスが増えるのでは」「国の貧富で格差が生じる」という指摘が出ている。 【一覧でみる】パリ五輪のメダル期待種目と注目選手 パリ五輪・パラリンピックは、従来大会と比べて温室効果ガスの排出量を半分に抑えることを目標に掲げる。選手村からのエアコン排除は、使い捨てプラスチック排除などの環境対策のひとつ。暑さを防ぐため壁に断熱材を配し、地下のパイプに水を通す計画で、大会組織委は「これで室温を外気より6~10度下げられる」と主張する。 ■近年は40度超えも だが、西欧は近年猛暑続きだ。パリの気温は2019年7月、22年7月にそれぞれ40度を超えており、たちまち不安が広がった。 米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)のハーシュランド最高経営責任者(CEO)は21日の記者会見で、米選手団の部屋に独自にエアコンを付けると発表した。「大会組織委の取り組みには敬意を示す」としながら、選手が全力を尽くせる環境作りが重要だと訴えた。オーストラリアもエアコン敷設のため、10万ドル(約1600万円)をかける計画だと報じられた。 日本オリンピック委員会(JOC)は昨年12月、各競技の強化担当者によるコーチ会議でエアコン設置の方針を表明している。 米紙ワシントン・ポストによると、日米豪のほか、イタリアやカナダ、ドイツ、デンマークなどがエアコンを独自に設置する方針だ。多くはフランスで携帯式エアコンを調達するとみられるが、ギリシャは国内から移送する予定といい、「トラック移送で温室効果ガスが排出される」という指摘もある。資金難からエアコン敷設を見送った途上国もあり、仏紙リベラシオンは、国の貧富によって選手の宿泊環境に格差が生じると問題視した。国際エネルギー機関(IEA)によると、エアコンは世界の電気消費量の10%を占める。 ■100年前より気温3度上昇
英ポーツマス大は今月18日、五輪選手とともに作成した報告書を発表し、パリ五輪の選手村について「エアコンがないために、暑くて眠れないのではないかという不安が出ている」と指摘した。五輪が開催される7~8月、パリの気温は100年前に比べて平均3・1度上がったというデータを提示。大会主催者に選手の安全を確保するよう求めた。2021年の東京五輪は気温が34度、湿度が70%に達し、選手団は過酷な環境で競技を迫られたとも記している。
国際エネルギー機関(IEA)によると、エアコンは世界の電気消費の10%を占める。米国や日本の住宅でエアコン普及率は9割にのぼるが、フランスでは1~2割とされる。(三井美奈)