新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が発生した結果として、米国の各企業は、原材料や部品の一切合切を中国から調達するのはまずいと学ぶようになった。そして彼らの大半が、パンデミック収束後は中国以外の調達先に切り替えようと考えている。他方、ヨーロッパの企業は、そうした考えは少ないようだ。
各国の企業に向けて、サプライチェーンの監査や品質管理プログラムを提供する香港のQIMAが2020年7月に実施した調査によると、調達先を分散化させる可能性が最も高いのは米国企業だ。米国を本拠地とする回答企業の95%が、サプライヤーを中国以外の国に切り替える予定だと回答した。その理由として、新型コロナウイルスのパンデミックに加えて、米中の地政学的な緊張関係が悪化していることがあるのは言うまでもない。
一方、欧州連合(EU)加盟国に本拠地を置く企業のうち、中国以外にサプライヤーを分散させると回答したのは半数にとどまった。アジア太平洋地域の企業は、大半が現状を維持する予定だが、中国は地理的に近く、彼らにとっては庭のようなものだ。ヨーロッパは米国よりも中国に近いというわけではないが、かなり多くが中国を選び続けるつもりであることが改めて証明された。
とはいえ、QIMAの調査を見ると、米輸入業者の多くは今もなお、中国ときっぱり決別するのは難しいと答えている。電子部品から、サージカルマスクやN95マスクといった今や世界中で必要とされる基本的なアイテムに至るまで、中国が調達先として唯一の選択肢であるケースが依然として多いためだ。
海外工場の検査や監査を担当するQIMAによると、第2四半期に同社に依頼された監査の件数は12%減で、減少幅は予想ほど悪くはなかった。
約200社が参加して実施された今回の調査では、米国を拠点とする回答企業のおよそ87%が、自社の調達先上位3か国に中国を挙げている。そして、実に60%が、部品や原材料の半分以上を中国から調達していると回答した。
各社は、中国への依存リスクの軽減に努めており、その手始めとしてベトナムに注目している。米国を拠点とする回答企業の少なくとも半数が、調達先の候補としてベトナムを挙げた。
ベトナムにある工場に関する監査依頼数は今年6月、年率で42%増加した。こうした監査依頼数は、ベトナムにある生産設備への需要を判断するのに最も適した尺度だ。
ベトナムは中国と比べて、労働基準と規制が緩いため、多くの中国企業がかなり前からベトナムへ工場を移転している。つまり、調達先の国は中国ではなくなるかもしれないが、調達先はあくまでも中国企業というわけだ。ただし、ベトナムの新しい生産設備のうち、中国から直接投資を受けている工場がどのくらいの数に上るのかは、調査結果報告書からはわからない。
新たな調達先としてベトナムを挙げていない回答企業の30%は、バングラデシュやインドを検討している。
特定の業界に属する米国企業は、引き続き中国に大きく依存している。特に目立つのが、電子部品やコンピューター部品だ。アップル製品の多くは、電子機器受託生産大手フォックスコン(鴻海精密工業)の中国工場で生産されている。
中国における米バイヤー向け電子機器の検査数は増加しており、2020年5月には7.5%増、6月にはプラス15%だった。
中国における検査・監査の需要を調査したQIMAのデータを見ると、2020年に入って以降、中国からの調達は減少と回復が繰り返されており、「W字」カーブを描いていると、調査報告書「QIMA 2020年第3四半期バロメーター(QIMA Q3 2020 Barometer)」の作成者は述べている。
2020年1月から2月の工場検査は、ロックダウンの影響を受けて、前年同期比で33%減少。その後の3月には、中国の製造業が回復の兆しを見せて12%減にとどまったが、4月には再び減少して、前年同期比で22%減となった。これは、米国やヨーロッパでロックダウンが実施され、西側バイヤーからの需要が減ったためだ。
ヨーロッパでは、新型コロナウイルスの予防規制が緩和されつつあり、5月以降は検査や監査の依頼が増加傾向にある(5月は前年同期比でマイナス5.5%、6月はプラス1%だった)。
QIMAによれば、中国回復のかげで重要な役割を果たしているのがヨーロッパのバイヤーだ。監査依頼は、5月に16%増、6月には28%増となった。
第1四半期と第2四半期を通じて、生産から物流、品質管理検査に至る世界的サプライチェーンでは、いくつものリンクに対してパンデミックによる影響が生じたが、病院向けの個人防護具(PEE)は、こうした影響をいくぶん和らげる要因となった。
PPEはさらに、西洋諸国の小売業界から衣料品生産の発注が入らなくなった縫製工場にとって命綱となった。2020年前半、中国にあるアパレル工場の検査と監査は21%減少。中国をはじめ、ベトナムやバングラデシュ、カンボジア、ミャンマーなど多くの国々では、ポロシャツではなくPPEやマスクの製造に、労働者を投入することになった。
そういった対応をした企業の数は、パンデミックの最中に事業を継続すべく軌道修正した工場の監査件数に反映されている。2020年1月から5月までで、QIMAが実施したPPE製品の検査量は30倍も増加した。6月までの3か月間で、検査を行ったマスク数は12億枚以上に達し、そのほとんどは中国で実施された。