宮城県沿岸部の被災農地の再生を目指し、綿花の栽培と綿製品の商品化に取り組む「東北コットンプロジェクト」が苦戦している。ビジネスモデル構築の最終年と位置付けた今シーズンも、低温や度重なる台風で収量が伸び悩んだ。それでも綿が取り持つ人的な交流は確実に広がり、関係者は手応えを感じている。
仙台市若林区の被災農地で11月中旬にあった3年目の収穫作業には、東京などから約400人が集まった。広さ2.2ヘクタールの畑で綿の実が開いたのはわずか。作業は1時間足らずで終わった。
農業生産法人荒浜アグリパートナーズの渡辺静男代表は「収量は目標の5分の1の200キロにも満たないだろう。ことしは除草剤を散布する認可を受け、期待していたのだが…」と肩を落とす。
綿は1ヘクタール当たり1トンが収益を出す目安。プロジェクトに参加する県内の3農地で、水準を満たした産地はなかった。
名取市の1ヘクタールで栽培する耕谷アグリサービスの収量は、昨年の50キロ余と同水準の見通し。担当者は「梅雨の寒さで生育が遅れた」と説明する。
東松島市内で今季初めて2ヘクタールを作付けしたイーストファームみやぎ(美里町)は、目標の3割の300キロを見込む。「相次ぐ台風や秋の厳しい冷え込みで実が思うように開かなかった」と言う。
綿は塩害に強いが、本来は温暖な地域に適する植物。梅雨や秋にぐっと冷え込む寒冷地では育ちにくい。県農業・園芸総合研究所は「県内での露地栽培には収量に限界がある」と指摘する。
プロジェクトは東日本大震災発生後に紡績会社などが発案した。過去2年も大雨や害虫の発生で収量は低迷。収穫した綿でタオルやTシャツなどを作り、雇用拡大や産業創出を図る狙いがある。
収量は思うように伸びなかったものの、プロジェクトを介した人的交流が被災農家を支える。
荒浜アグリーパートナーズは製品化されたタオルなどの売り上げが100万円を超えた。作業に訪れた際に米や野菜を購入してくれるボランティアも多い。市内で開催されるイベントの物販部門に呼ばれる回数も年20件近くに及ぶ。
渡辺代表は「復興の象徴の綿が人と人をつないでいる」と話す。イーストファームみやぎも「綿の産地として知名度が向上すれば、被災地ツーリズムを確立することが可能だ」と期待する。