マンション総合保険で不正請求が蔓延か
保険金請求を“水増し”していたビッグモーター問題でクローズアップされた、損害保険の不正請求。顧客の車を故意に傷を付けるなど、言語道断の行為が明るみに出たが、実は、マンションの共用部分が損傷した際に補償を受けられる損害保険「マンション総合保険」も、水面下で不正が蔓延しているという。(*記事内容は編集部が保証するものではありません。実際のマンションの状況に合わせて考え方を参考にしてください)
別所マンション管理事務所代表の別所毅謙氏が言う。
「台風などの災害や不慮の事故でマンションの共用部分が何らかの損害を受けると、マンションの管理会社が工事の元請けになって市場価格の何倍もの工事費を保険会社に請求している事案が、少なからずあるのです。管理組合も『保険で賄えるなら』と、チェックが甘くなりがちで、すぐ保険請求手続きが承認されてしまいます」
この保険は、一般的にはマンションの管理会社が代理店となって、保険金が降りそうな物損事故があると、管理組合に保険利用を勧め、申請手続きを代行する。近年では、個人賠償責任補償特約の包括契約や施設賠償責任保証特約が付帯されているものが主流になっており、占有部での漏水などの過失も保険の対象となる。一般的な50戸のマンションでは、5年契約で年30万円程度の保険料がかかる。
とはいえ、保険で賄える場合でも管理組合が全く損をしないわけではない。保険の更新前の査定期間で請求回数が増えれば、その後の更新時の保険料に影響する場合もあるのだ。
台風ひと吹き1000万円?「神風だ!」と担当者はご満悦
別所氏が続ける。
「特に不正請求が多いと思われるのは、台風の発生時です。マンションが暴風雨に晒されると、バルコニーの隣の住戸とを隔てる『仕切り板』が破損する場合があります。仕切り板の交換費用の相場は5万円程度なのですが、これを管理会社が15万円程度の費用で保険会社に請求することがあるのです。
台風になれば、多くの管理物件で同様のことが起こるので、仮に100枚の破損があると、管理会社は約1000万円の利鞘を抜けてしまうのです。こうした行為をあからさまに行っているある管理会社では、台風が吹くと『神風だ!』と担当者が喜ぶといいます」
仕切り板だけではない。別の業界関係者によると、50万円程度で済む漏水の補修工事を150万円で請求したり、フェンスが損壊した場合も70万円を200万円で請求したりする事例などもあるという。また、共用部の壁や床のタイルが破損すると、仮に住民による過失であったとしても、加害者を特定しようとせず、安易に保険が使われる場合もあるという。
「問題なのは、マンション管理会社が保険の代理店になっている一方で、そのグループ会社などが工事の元請けになって、自社の過大な利益を乗せ放題できてしまうことです。しかも顧客である管理組合の保険を使って、です。
ビッグモーター問題では車の修理はある程度単価が決まっているため、傷を付けるなどして”故障を増やす”必要がありましたが、マンションの補修工事は基本、オーダーメイドで住民には工事費用の相場感がなく、“言い値”での請求が通ってしまいます。悪徳であっても、合法ではあるので、余計にタチが悪いと言えます」(同)
不正請求で保険料が上がっても管理組合は加入せざるを得ない
もっとも、保険金の支払いが増えると、保険会社も黙っていないはずだが、ここでもビッグモーター同様の構図が見え隠れする。
「損保会社にとって、契約の窓口となるマンション管理会社は大口の顧客にもなっているので、請求に対してシビアな対応はできません。また、自然災害があると、請求も一気に増えて、慣れない応援スタッフが対応するなど、細かいところまで目が通せず、”ザル”になってしまいます。しかも、マンションも保険に加入しないわけにいかず、保険料の値上げ自体も難しくはない。実際、マンション総合保険の保険料はここ数年、毎年10%程度の値上がりが続いています。
自然災害が増えてきたことも一因ではありますが、それに便乗して一般的な工事の相場と乖離した利益をのせる請求も増えている結果だとも考えられます」(別所氏)
しかも、理不尽なのは、自分たちのマンションが不当な請求をしなくても、他のマンションが不当に高い請求をしていると、保険料自体が上がってしまうことだ。
結果的に多くのマンションで「高額な工事でも保険を使えるなら請求しておかないと損」と考えて保険金の支払いが増えると、保険料が上がってしまうという悪循環に陥っているのだ。そもそも、個々のドライバーの事故に対する補償と違い、災害など不慮の事故を補償するマンション総合保険の使用頻度に偏りがあること自体、不自然とも言えるだろう。
そのため、近年では車の任意保険のように、マンション総合保険でも「等級性」が導入され、更新前の半年~1年間は保険金の請求回数によって次の契約の保険料が決まるようになった。しかし、それでも保険会社は支払いに追い付かず、結果、マンション保険の部門は毎年のように赤字だという。
“査定期間”前に保険の切り替えの狡猾手口
また、管理会社の中には、等級の査定期間を迎える前に保険の解約や切り替えを提案するなど、“確信犯的”な事例も散見されると言う。
このような状況では、今後も保険料が上がり続けることは必至。結局は管理費の値上げといった形で、マンションオーナーの負担になってしまうのだ。
水増し請求の問題は、マンション総合保険だけではない。分譲マンションの所有者にとって、はるかに問題なのが、大規模修繕の費用において、談合やキックバックなどで膨れ上がる巨額な”水増し”だ。
続く記事『財閥系マンション管理会社が大規模修繕で1億円以上の“上乗せ”…!『談合、水増し、裏金』のヤバすぎる実態』で詳報する。