大手の外食・居酒屋チェーンをめぐる、ビール業界の“勢力図”が急変している。出資や協賛金の拡大により、これまでの取引をやめて、アサヒビールの銘柄に乗り換える「銘柄切り替え」が相次いでいるのだ。ビール出荷の約半分を占める業務用市場での急速な囲い込みに、「札束で強引に顧客を奪うようなもの」(ビール大手首脳)と批判的な声も上がりつつある。
居酒屋「北海道」や焼き肉店「牛角」などをチェーン展開するコロワイドは今年、店舗で扱うビールをサントリーの「プレミアム・モルツ」からアサヒの「スーパードライ」に変更した。関係者によると、アサヒはコロワイドに数十億円の協賛金を支払い、銘柄切り替えに成功したのだという。
またアサヒは、居酒屋チェーン運営のチムニーや、ファミリーレストラン大手のすかいらーくに出資したほか、10月には「日本海庄や」などの居酒屋チェーンを展開する大庄の発行済み株式を追加取得し、保有比率を9%にした。これに伴い今秋から、大庄のチェーン各店では、アサヒが主力となった。
大庄株はサントリーが約13%保有していたが、9月末に大半を売却。放出分をアサヒやサッポロビールなど競合他社がこぞって取得したのだ。大庄では、キリンやサッポロ、サントリーは小口納入にとどまっている。アサヒの取り組みについて、関係者は「アサヒが出資と同時に、協賛金なども提案した結果、乗り換えとなった」と説明する。
アサヒの1~10月期の業務用ビール販売は、前年同期比で5%増えた。同期間の国内ビール類市場は2%程度減となる中で、業績改善は際だっている。
アサヒビールの平野伸一専務は「乗り換えは今年4件ほど表面化したが、これは人間関係の構築など数年がかりの取り組みだ。それが今年花開いた」と説明する。
一方、コロワイドを奪われたサントリーは、キリンが独占的に納入してきた焼き鳥チェーン、鳥貴族から契約切り替えを取り付けた。
今後は、サントリーと関係の深いワタミの業績悪化を背景に、ビール各社の攻勢が強まるとみられている。ビール各社の“縄張り争い”は、さらに激しさを増す。(平尾孝)