ファストフード市場に”黒船”が相次ぐ理由

4月21日、午前10時前。渋谷の細い路地に200人を超す行列ができていた。視線の先にあるのは「タコベル」という米国発のメキシカンファストフード店だ。

【図表】“黒船”参入が相次ぐ日本のファストフード市場

この日、日本1号店を開いたタコベルは、ケンタッキーフライドチキンやピザハットを展開する、米ヤム・ブランズ傘下の企業。タコスやブリトーといったメキシコ料理を提供する飲食チェーンだ。米国を中心に世界で6500店を展開している。

「日本にはメキシカンのチェーン店が存在しない。この分野で展開すること自体が差別化につながる」。タコベル インターナショナルのメリッサ・ロラ社長はこう意気込む。

■ カールス・ジュニアやシェイク・シャックも

ここ数年のうちに日本への進出を決めた外資系のファストフードチェーンは、タコベルだけではない。

世界33カ国で展開するハンバーガー店「カールス・ジュニア」は、2015年秋にも東京で1号店を開く予定。若い男性をターゲットに、ボリューム重視の商品で差別化を図る狙いだ。

米ニューヨークの店舗で行列が絶えないとうわさの「シェイク・シャック」も、2016年中に東京に出店する計画だ。抗生物質を使わず飼育した牛の肉を用いるなど、素材への配慮が特長の同社は、現在9カ国で66店を展開している。

 とはいえ、肝心の国内外食市場は、1997年をピークに縮小基調にある。近年はコンビニやスーパーなど中食の攻勢で競争が一段と激化。人口が減少する中、市場の回復が期待できる状況ではない。

それでも彼らが参入に踏み切ったのはなぜか。背景には、日本の外食産業を取り巻く、いくつかの環境変化がある。

1つは、これまで圧倒的な存在感を示してきた、日本マクドナルドが後退していることだ。同社は原田泳幸社長時代に店舗網の改廃を急ピッチで進めた結果、 2006年末に3828店だった店舗数が、今年3月末には3072店まで減少した。あるファストフードチェーンの首脳は「マクドナルドの撤退が続いている ことで店舗物件の獲得が容易になっている」と明かす。

変化はそれだけではない。SNS(交流サイト)の発達により、ブランドの浸透が図りやすい環境が整ったことも大きい。実はタコベルやカールス・ジュニアは1980年代後半に日本に上陸したものの、事業が軌道に乗らず、共に数年で撤退に追い込まれた。

「当時はブランドの知名度がなかなか高まらなかったが、今回の日本進出を表明したときは、SNSを中心に大きな反響をもらった。今こそ多くのファンを獲得できる時期だと思っている」(タコベルのロラ社長)

■ 消費者ニーズも変化

消費者のニーズも変化している。外食産業を調査しているエヌピーディー・ジャパンによると、飲食店を選択する際に「料理のおいしさ」を理由にする人の割 合は、2009年の27%から2013年には30%に上昇した。一方、「価格が手頃」を理由とした割合は、37%から34%へ減少している。

シェイク・シャックのランディ・ガルッティCEOは「日本市場は確かに縮小しているが、成熟化も進んでいる。だからこそ、高付加価値の商品や目新しいブランドが、受け入れられやすい状況にある」と分析する。

 こうした市場の変化を先読みして一足先に日本に進出したのが「バーガーキング」だ。同社もタコベルなどと同様、日本から一度撤退したが、2007年に再参入を果たした。

バーガーキングは期間限定メニューの継続的な投入や、日本人の嗜好に合わせたソースの開発、食べ放題のキャンペーンなどで話題性を高め、固定客を獲得し てきた。これまで業績は堅調に推移しており、現在は92店まで店舗網を拡大。日本全国への進出も視野に、2017年末には200店体制を築く構えだ。

そして次なる成長に向け、同社が現在注力しているのが低価格帯商品の拡充だ。主力商品の単品価格は500円前後だが、2010年に100円台の単品商品を発売。2011年には500円前後で注文できるセットメニューを投入した。

「日本でリピーターを増やすには、主力商品だけでなく低価格商品も重要だ。幅広い価格帯の商品戦略が、国内での生き残りにつながる」(バーガーキング・ジャパンの村尾泰幸社長)

■ ブランド価値と客数拡大のバランス

ただし、こうした低価格路線は、マクドナルドが原田社長時代、100円メニューを充実させた戦略とも重なる。一時的に客数は増えたが、客単価が下がった うえ、顧客の滞在時間が延び、店舗の収益性は悪化。外食業界には、これが同社の業績低迷の遠因になったと見る向きもある。

ブランド価値を維持しながら、客層も拡大させる。この2つのバランスを取りながらどう成長の絵を描くのかが、外資系外食チェーンの行く末を左右しそうだ。

(「週刊東洋経済」2015年5月2-9日号<4月27日発売>「核心リポート03」を転載)

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