ファミマでも無断発注が発覚、本部社員が加盟店に負担を強いる呆れた実態

ファミマよ、お前もか――。「私が経営している中では、無断発注は起きていない」と胸を張っていたファミリーマートの澤田貴司社長。ところが、オープン直後のファミマの店舗で、本部社員がオーナーに無断で商品を発注していたことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。本部の地区責任者は無断発注を認めてオーナーに謝罪したが、「加盟店支援のつもりだった」と不可解な弁明に終始。無断発注は最大手のセブン-イレブン・ジャパンで問題となったが、ファミマも例外ではない。本部によるオーナーへの謝罪や弁明を記録した音声データと共にお届けする。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

詳しい発注方法をオーナーに教えず本部社員がログインしたままの端末が

 セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)で昨年発覚した、本部社員による加盟店での無断発注問題。永松文彦社長は2019年11月、経済産業省の有識者会議で、該当する社員2人を懲戒処分にしたことを明らかにした。ただ、業界関係者の間では無断発注はSEJに限った問題ではなく、「どこのコンビニエンスストアチェーンでも起きている」と言われていたが、実際にその通りだった。

 SEJに次ぐ業界2位のファミリーマート。澤田貴司社長は、「私が経営している中では無断発注は発生していません」と19年末に本編集部のインタビュー(『ファミマ澤田社長激白、加盟店の過度な負担「反省している」』)に答えていた。また、SEJの無断発注が話題となった経産省の有識者会議の席上では澤田社長は「(ファミマでの無断発注は)発生していないと信じております」と述べ、もし発生しても、第三者に情報を提供して判断を仰ぐ仕組みがあると胸を張った。

 ところが、こうした澤田社長の一連の発言に対して、「現場の実情を知らないだけではないか」と憤りを露わにするのは、西日本でファミマ加盟店を経営するある男性オーナーだ。このオーナーによれば、17年の開業当初から、店の経営指導を担当する本部のスーパーバイザー(SV)が、商品の発注方法を詳しく教えないまま、無断発注を繰り返していたという。

 大手コンビニの加盟店では、売れ残った弁当や惣菜の仕入原価の大半を加盟店が負担する仕組みだ。そのため、売り上げを伸ばしたい本部が加盟店に大量の商品を仕入れさせ、在庫や廃棄の負担を押し付けて販売機会を増やそうとする手法が問題視されている。

 ファミマでは、商品の発注は店舗のストアコンピューター(ストコン)を使う。そして通常の発注に加えて、新商品の発注と、発注時期を早めることで安く商品を仕入れられる「事前発注」は、ストコン上で通常発注とは別の画面で行う。ただ、このオーナーは開業当初、通常発注のやり方しかSVに教えてもらえなかったという。

 開業して3、4カ月たった頃、オーナーは自分や妻が発注した量よりも多くの商品が納入されていることに気が付いた。SVがオーナーに教えていなかった新商品や事前発注の仕組みを使い、無断発注していたとみられる。

 また、ストコンや、首から下げて発注作業ができる持ち運び型端末には、オーナーや店舗従業員だけでなくSVがログインすることもできるが、これらの端末にSVが自分の名前でログインしたままの状態だったこともしばしばあった。

「私が買い取った」と本部社員が振る舞うビール売価を下げただけで実は加盟店の負担に

 不審に思ったオーナーが問いただしたところ、SVは、「じゃあ自分で発注作業をしてくださいよ。どうせ自分でできないんでしょう?」と言い放ったという。その後のオーナーとのやり取りで、SVは自ら発注した商品を「自分で買い取る」と宣言したが、実際には買い取っていなかった可能性が高く、その後も加盟店に負担を付け回していた。

 このSVはしばしば、春や秋に出される季節限定販売のビールや、アイスクリーム、ボジョレーヌーボーのワインなどを、「私が買い取ったものですから」と言いながら従業員に配ることがあった。

 ところが19年の暮れ、店舗奥の事務所に、オーナー夫婦が注文した覚えのない定価280円のアイスクリームを、140円に値下げする「売価変更伝票」が見つかった。日付は17年12月6日で、無断発注を繰り返していたこのSVと営業所長の印がある。

 売価変更伝票とは、販売期限の近づいた食品を加盟店のオーナー判断で値下げして販売する、いわゆる「見切り販売」をする際に、その商品名と変更前後の価格を記入して本部に提出するためのものだ。紙が水色なので「青色伝票」と呼ばれる。

 ところが、このオーナーは見切り販売をした覚えがなかった。それどころか、青色伝票の存在すら教えられていない。値下げすれば多少は売れやすくなるだろうが、売れ残れば原価の大半が加盟店負担となる。SV自身が個人で買い取る“自爆営業”と異なり、結局は加盟店に負担を強いていたわけだ。

 17年のオープン当初、店舗経営は悲惨な状況が続いた。開業当初は1日当たりの売上高を示す「日販」が30万円程度と、ファミマの既存店平均の50万円強には程遠く、最終利益が赤字の月もあった。初期は従業員も5、6人しか集まらず、当時大学生だった長男と共に、午後8時ごろから翌朝の午前9時ごろまで働き、日中は妻が店頭に立った。オーナーは自宅に帰る時間もなく、河原に乗用車を止めて仮眠を取ることもしばしばだった。

 開店直前、本部の店舗開発担当の社員は「責任を持って従業員を集める」と明言。近隣でビラを撒いて従業員を募集すると宣言していたが、実際には撒かれなかった。オープン初日こそ本部社員5、6人が応援に入り、店舗運営をサポートしてくれたものの、3日以内に全員が撤収してしまった。

「初心者でもできますよ」「懇切丁寧に指導します」――。オープンまでの開発担当社員たちの甘言は一体何だったのかと、オーナーの怒りは収まらない。

 加えて、密かに無断発注を繰り返していたSVは開店直後、オーナーに対して食品の1日当たりの廃棄金額を1万円以内に抑えることを求めていた。

 ファミマでは、オープンから4カ月目までは、本部が加盟店の廃棄費用の80%を負担する制度がある。開店直後は店の認知度が低いため、本部が支援して十分な品揃えをし、客の定着につなげるための仕組みだ。

 しかしこのSVは廃棄額を抑えることで、本部側の廃棄負担コストを抑えたかったとみられる。加えて、この店のオープンはある月の末日。このたった1日が、廃棄費用の80%が補助される1カ月としてカウントされ、実質3カ月しか補助が得られなかったとこのオーナーはため息をつく。

「無断発注は加盟店支援」と不可解な弁明仕入れノルマが原因か

 最初のSVは交代したが、続いて担当した2人目のSVも無断発注をし、オーナーに対してこのことを認めた。オーナーは、SVの上司に当たる営業所長に事情を伝えたものの、十分な対応をしてもらえなかった。そこで、無断発注が何らかの犯罪に当たると考えたオーナーが19年夏、本部側に刑事告訴する可能性を伝えた。すると、本部の態度が一変。本部側は一連の行為を認めて“謝罪”した。

 営業所長のさらに上司に当たるその地域の統括部長がオーナーの元に駆けつけたのは19年7月。その後、9月までの複数回のやり取りで、統括部長は「SVから聞き取り調査をしたが、(無断発注は)あくまでオーナーへの支援のためだった。それでも結果的に不快感を与えたのでお詫びする」と告げた。同年12月になって1人目のSV本人もオーナーを訪れ、無断発注と青色伝票の無断利用を認めて謝罪したが、同様に「店舗に損害を与える意図はなかった」などと不可解な弁明を繰り返した。

 とはいえSVの一連の行為が加盟店支援に資するものではないことは明らかである。1人目のSVはオープン当初、1日の廃棄額を1万円に抑えるよう求めながら、自ら密かに無断発注をしていたのだから、そもそも行動が矛盾している。

 また、このオーナーの店舗は幹線道路沿いにあり、ドライバー客が多いため酒類の売り上げは少ない。にもかかわらず季節限定ビールなどを仕入れることは、客や店舗のニーズに合っていない。

 ファミマのあるベテランオーナーは、「本部がメーカーとタイアップした限定商品など本部が特に販売に力を入れたい商品は、『重点事前発注』と呼ばれ、期限内に仕入れるようSVから何度もしつこく求められる」と打ち明ける。

 SVの評価尺度にこうした重点商品の売上高や発注数が関わってくることは業界では当然のことと捉えられている。無断発注の原因を報道陣に問われたSEJの永松社長は、「本部社員に売り上げなどのノルマは課していない」としながらも「数字に追われてプレッシャーがあったのではないか」と述べ、事実上ノルマの存在を認めた。ファミマでも各地区の責任者やSVに対し、加盟店の仕入れノルマが課されていたと考えるのが自然であろう。

 脱サラして開業したオーナーが、小売業の経験がない初心者であるのをいいことに、本部は店舗運営の方法をまともに教えることなく、実態を無視してひたすら商品を仕入れさせ、本部のノルマを達成するためだけに利用された――。

 少なくともこのオーナーはそう受け止めている。2人目のSVも無断発注を行っていたことから、こうした行為が組織的に常態化していた可能性も否定できない。加えて無断発注がなされた総額は、オーナー本人には未だに知らされていない。

 しかも本部とオーナーとのやり取りには、加盟店の苦情や問題提起を受け付ける「加盟店相談室」の担当者も同席している。ならば、澤田社長をはじめとした本部の中枢にもこうした事態は報告されていてしかるべきだ。しかし、澤田社長は冒頭のように、自社で無断発注はないと堂々宣言している。ファミマにおいてもガバナンスの深刻な機能不全に陥っていることは明らかだ。

 ファーストリテイリング副社長などを経て16年にファミマのトップに就任した澤田社長は、コンビニ加盟店の負担がクローズアップされた19年以降、本部の同意なき時短営業を認める方針を掲げるなど、大胆な加盟店支援策を打ち出している。本部に批判的な加盟店オーナーの間でも、その手腕に期待する声がある。

 SVの人事評価や配置の見直しにも着手し、「加盟店に寄り添った支援」を標榜しているが、19年以降になされた、今回の本部によるオーナーへの“謝罪”の内容は、加盟店に寄り添う姿勢にはあまりに程遠い。

 ファミリーマート広報部は「社内で調査し、不正が確認できた場合は厳正に対処する」とコメントしている。

(本記事を配信先サイトでご覧の皆様へ:証拠音声データは元記事https://diamond.jp/articles/-/224712でお聞きいただけます)

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