フェイスブックもニュースメディア化?

フェイスブックも独特のニュース戦略を展開しているが、あろうことか、自分のサイトをやめて、フェイスブックに移転するニュース・メディアまで出てきた。
「ニュース」に力を入れるフェイスブック
 少し前にツイッターがニュース・メディア的な特徴を持っているという話を書いた。ツイッターの利用者は、情報源になる人たちをフォローし、情報を入手しようとしている。またツイッター社にも、ニュース・メディア化しようという意欲が感じられた。
 新聞社などのニュース・メディアは、ネットで新たな収益を得られず苦境に陥っているのに、ニュースそのものはサイトへのアクセスを増やすコンテンツとしてネットで重視されている。なんとも皮肉な話だが、世界最大級の利用者を獲得するにいたったフェイスブックもまた、ニュースを積極的にとりこもうとしている。
 フェイスブックはメディアと組んで、昨年初めからメディアのコンテンツをより積極的にソーシャル化し、読者が知りあいを通してニュース体験を得られるようにしてきた。
 ニュースのソーシャル化というのは、マスメディアが一方的にニュースを伝えるのではなくて、友人・知人を通してニュースを知り・発見し・広め、さらにはニュースそのものも利用者が発信するといったことだ。
 そうした試みの結果、フェイスブックからメディア・サイトへのアクセスは300パーセントも増加したとのことだ。この春には新たにジャーナリスト向けページを開設し、ジャーナリストの便宜をはかり始めた。
 具体的な試みや成果の数々はこのページで報告されているが、そのひとつとしてジャーナリストに、自分の個人ページとは別にメディア活動のためのページを作ることを勧めている。
 こうしたことはジャーナリストでなくても必要かもしれない。
 個人用と仕事用で別のアカウントがほしいと思っている人は多いはずだ。
 だいたいの人は家族向けと仕事向けで違う顔を持っている。家族のほうも、仕事関係の話を自分たちにされても困る。ジャーナリストも同様で、政治ジャーナリストだからといって「政権のゆくえは」みたいなことばかり言っている父親は「うざい」と娘に言われるのが落ちだ。‥‥などといった困った問題を回避できるようにしようということなのだろう。フェイスブックではふつうのアカウントでもそれぞれに違った情報を流すことができなくはないが、少々厄介だ。
 日本では、フェイスブックは利用者数でも利用時間でもまだミクシィに遠く及ばない。だからこうした問題は生じていないかもしれないが、アメリカでは現実に起こっているはずだ。‥‥などと思っていたら、グーグルがこのように使い分けできるSNS「グーグル+」を始めると発表した。家族や遊び友だち、会社関係など知りあいを「サークル」に分けて情報発信できるようにしている。上司一人を「隔離」することもできるそうだ。
朝日新聞がサイトをやめて、フェイブックに移転する?
 このジャーナリスト向けページで知ったのだが、自分のサイトをやめて、フェイスブックに移転してしまったメディアまで出てきている。
 「ロックビル・セントラル」という首都ワシントン近郊メリーランドのコミュニティのニュース・サイトは、2月末で更新をやめてしまい、フェイスブックのページを使うことにした。この大胆な決断には、当のフェイスブックも驚いたようだ。
 しかし考えてみれば、これはありうる選択だ。
 フェイスブックの登録者は全世界で7億、アメリカでは人口の半分、ネット人口の7割以上がフェイスブックのアカウントを持っている。これだけ利用されているなら、フェイスブックの外にサイトを作るよりも、その内側で情報発信したほうがいいと考えるメディアが出てきても不思議ではない。
 多くのメディアは、フェイスブックにページを作って、自分たちのサイトにアクセスを呼びこんでいる。しかしそうすると、両方を維持しなければならない。フェイスブックを自分たちのサイトにしてしまえば、そんな面倒なことをしなくてもすむ。
 ロックビル・セントラルも移転にあたって「なぜ別のサイトを作って、人びとをフェイスブックから引きはがそうとするのか。なぜ人びとのいるところへ行かないのか」と言っている。言われてみれば、もっともだ。
 日本はフェイスブックが浸透していない数少ない国だからいまひとつわかりにくいが、たとえば、読売新聞や朝日新聞のサイトは、利用者数でヤフーに遠く及ばない。ならば独自サイトをやめて、アクセスの多いヤフーのなかにサイトを作ったほうがいい、と考えたようなものだ。
 もっとも、ヤフーはアクセスが多いといっても、サイトのなかでのアクセスの多い少ないはある。ヤフーのドメインになったからといってただちにアクセスが急増するとはかぎらない。そもそもヤフーはSNSのサイトではないので、読者と交流することもできない。しかしフェイスブックならば、一方的にニュースを送り届けるのとは違ったニュース・サイトができる。
 しかも、自分たちでメディア・サイトを作って維持するのとは違って、フェイスブックを使えばタダだ。ネット広告収入の伸びがいまひとつで苦しいメディア・サイトとしては、フトコロのことを考えても魅力的に思えたのだろう。
ありえたかもしれない新聞社のサイト
 ニュース・サイトとして作られているわけではないフェイスブックは、現状ではニュース記事を読ませるのには向いていない。記事のジャンル分けができないし、記事の検索もできず、古い記事も読めない。ニュース記事を読ませるサイトとしては不向きだが、ニュースをもとに議論はできる。自分たちのメディアの熱心な読者向け会員サービスのようなサイトはできる。
 新聞社が自分たちの虎の子のニュース記事をウェブでタダで配信したことで、ネットの成長にはつながったものの、新聞社の経営は苦しくなってしまった。ウェブに進出しなければ新聞社が生き残りやすかったということはなかったかもしれないが、新聞社の生き残れる時間は短くなってしまった。そうしたことを思えば、印刷版と同じ内容のサイトを作るのではなくて、ニュースを使ってまったく違った展開をするというのは考えてもいいことだった。そうした用途のためには、SNSはたしかに向いている。
 ロックビル・セントラルのもともとのサイトは広告を募っていたので営利メディアだと思うが、アクセス数や読者数が自分たちの成功の最大の指標ではないと言っている。人びとにどれぐらい公共のできごとに関心を持たせられるか。重要な記事についてどれぐらい深くしっかりした意見が交換されるか。読者が声をあげ記事に貢献するようになるか。こういったことが成功の指標だと言っている。
 フェイスブックを使ってしまうと広告収入を得られず、収益の道は閉ざされてしまうが、こうしたことが成功の指標ならばたしかにいいのかもしれない。
 
afterword
そういえば、最近も「フェイスブックって何ですか」と聞かれたので、まだ知らない人も多いのかもしれない。ミクシィのようなソーシャル・ネットワーク・サービスだ。ソーシャルというのは辞書には「社会的な」とか「社交的な」と書かれているが、人と付き合うためのサイトといったぐらいの意味だ。

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