ブラックアウトは二度と起きない? 「セコマ方式」で進む対策 “我が家の車が発電機“

北海道胆振東部地震から6日で1年を迎えます。北海道の295万戸を襲った全域停電「ブラックアウト」。長い所では約2日に渡って停電が続きました。

 初めての事態に戸惑い、真っ暗闇のなか、不便な生活を強いられてから、まもなく1年。いま、車を利用し停電を乗り切れる最新アイテムが登場し注目を集めています。その実力を検証します。

ブラックアウト当時のススキノの様子。北海道全域295万戸が停電となった。 ブラックアウトでも営業を続けたセコマ

 地震直後に、北海道にいた人々全員が直面した「ブラックアウト」。

 20代女性:「電気関係のものは全然使えなかった」
 20代男性:「ガスは通ってたけど、電気がつかなくてお湯が出ない」
 70代女性:「うちオール電化だから何もできなくて、息子の所に行きました」

 札幌市内で、当時の様子を聞いてみると、1年経った今でもその混乱ぶりを鮮明に記憶している人ばかりです。

地震当時、電源を確保して営業を続けたセイコーマート(セコマ提供)

 約2日間に及んだブラックアウトで我々の生活は電気によって成り立っていることを痛感しました。そんな中、身近なものから電気を確保し生活を支え、注目された企業があります。

 停電の影響で営業することができない店舗が続出する中、電源を確保し、食料や飲料水などを販売し続けた「セイコーマート」です。北海道で約1100店舗を展開するセイコーマート。あの時、どのようにして電源を確保したのでしょうか?

こちらが全店に配備されている「非常用電源セット」。

 「車から電源を引っ張ってレジを動かすという『非常用電源セット』を全店に配備していましたので、それを活用してレジを動かしたと」と、セコマ広報部の佐々木威知部長は振り返ります。

ブラックアウト時に営業を続けたセイコーマート(セコマ提供)

 車のシガーソケットから電気を取り、それを家庭用コンセントで使えるように変換する装置を用意していたのです。延長コードを差してレジまで引っ張ってきて、レジとつないでいました。

車から電源を取り、家庭用コンセントで使えるよう変換する装置を使ってレジを稼働させた。(セコマ提供)

 この「セコマ方式」と呼ばれるシステムを使って、全店舗の95%にあたる1050店舗で営業を続けることができたのです。

あかりみらいが開発した「安心コード」。 「セコマ方式」を家庭でも簡単に!

 この「セコマ方式」を家庭でも簡単に使えるよう、新製品を開発した会社が札幌市にあります。企業や自治体などに電気のコンサルタントを行う「あかりみらい」です。

 この会社が開発したのが、ハイブリッド車専用の延長コード「安心コード」(1万8000円・税別)です。

 一方を車内のコンセントに差し込み電気を取り入れます。もう一方は家庭用コンセントになっており電化製品をつなげます。

新型ハイブリッド車だと1500Wまで給電可能

 あかりみらいの越智文雄さんは、「いまハイブリッド車がどんどん普及しておりますので、車内にコンセントがある。新型ハイブリッド車だと1500Wまで給電できる」と話します。

 シガーソケットから電気をとる装置では、給電できるのは120W程度で、使用できる電化製品が限られてしまうのが課題でした。そのため、セイコーマートでもレジや手元の照明程度しか使えませんでした。

安心コードのイメージ。消費電力は製品によって異なるが、ガソリン満タンで丸2日電気が使える。

 しかし、ハイブリッドカーであれば1500Wまで使えるというのです。また、この安心コードは容量をオーバーした場合には自動的に電気を遮断するので、車が故障することもありません。ガソリン満タンの状態で、丸2日間電気が使えるということです。

 あかりみらい 越智文雄さん:「『我が家の車は発電機なんです』という時代になっていくと思います」

山谷さんのオール電化住宅で、「安心コード」の実力を検証。 「安心コード」の実力を検証

 この「セコマ方式」の導入を検討している札幌市の家庭で、その実力を検証してみました。

 札幌市南区の主婦・山谷あずささん(34)。住宅はオール電化のため、地震当時は不便を強いられました。電気が復旧するまでに1日半ほどかかり、スマホの充電もできなく、情報収集できない事態に陥りました。「自分たちが置かれている状況がわからなかった」と振り返ります。

最新のハイブリッド車には、コンセントの差込口がある。

 今回、使用するのはハイブリッドカー。最新の車にはコンセントの差込口があり、給電が可能とされています。

 「安心コード」を差し込みます。このコードは長さ10メートルあり、大抵の一軒家であれば車庫からリビングまで延ばせます。

コードの長さは10m。車からリビングまで、たいていの家なら延ばせる。

 停電で誰もが困ったのが「照明」ですが、車から引っ張ったコードをつなぐと照明がつきました。当時は真っ暗闇のなか、ろうそくで一夜を明かした家庭が多くありました。リビングに灯りがあれば、随分助かります。

情報収集のためのスマホ充電や、生活に必要な家電を稼働させることができた。

 さらに山谷さんが困った「スマホ充電」もできました。

 この安心コードで、一度に使用できる電力は1500Wまで。手元で消費電力を計測してみると、照明とスマホ充電で合わせて11Wほど。

 まだまだ生活に必要な家電を稼働させることが出来ます。「テレビ」「炊飯器」のスイッチも無事につきました。この家電をプラスしても消費電力は合わせて571Wです。

 このように車が発電機替わりとなり、停電時でも最低限の生活ができることが分かりました。山谷さんは、「まだ電力に余力があるので安心できる」と、その実力に驚いていました。

 この「安心コード」は、コンセントの差込口がある新型ハイブリッドカーが対象ですが、北海道内の大手自動車販売店などで2019年4月に発売となり、現在までに100個ほどが売れているということです。

「車を発電機に」という動きは自治体でも

 自治体にも、ブラックアウトを教訓にした取り組みが広がっています。札幌市の隣、小樽市で8月30日に実施された防災訓練では、今回初めて、レンタカーから電源を供給する訓練が行われました。

 小樽市は「セコマ方式」を避難所でも導入できないかと考え、トヨタレンタリース札幌(札幌市)と、災害時に機動力のあるレンタカーを電源車とする災害協定を結びました。

 今回の訓練では、電源車と市が避難所に設置するLED投光器6器をつないで点灯させる手順などを確認しました。

 発電機ではなく、レンタカーを選んだ理由について、市の担当者は、「通常の維持費がかからず、必要な時に必要な台数だけ利用できる。移動も簡単でスピーディーに対応できる」とそのメリットを強調します。

ブラックアウトの可能性について「リスクはゼロではない」という北大の原准教授。 ブラックアウトの教訓をどう生かす?

 今後ブラックアウトが起こる可能性について、北海道大学大学院情報科学研究院の原亮一准教授は、「北電も対策を取り、設備も増えてきている。苫東厚真発電所の一極集中とは違った運転もできるようになり、リスクはかなり減っている。ただゼロではない。100%の安全とかリスクゼロということはない」と話します。

ユニバーサルエネルギー研究所の金田社長は「安定供給のコスト負担のための議論を」と提言する。

 また、ユニバーサルエネルギー研究所(東京)の金田武司社長も、ブラックアウトの教訓は「一極集中の怖さ」とした上で、今後の議論について「民間企業である北電が事業のリスクすべてをカバーするのは不可能。政府を含めて、誰が安定供給のためのコストを負担するのかということを明確にしていかないといけない」と提言しています。

 北海道民はブラックアウトを経験して、車から給電できることを教訓として得ました。いざという時のために、一般家庭はもちろん避難所でも、“車から給電“という手段への関心が急速に高まっています。



 この記事はUHB北海道文化放送とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。北海道胆振東部地震の被害の実情と復興の過程を、地元メディアの目線から伝えます。

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