新卒採用市場において、インターンシップが活況を呈している。マイナビの調査によると、2025年に卒業する学生のインターン、仕事体験の参加率は85.7%、企業のインターン実施率は61.3%で、いずれも過去最高となった。 【関連画像】インターンシップの参加者、実施企業とも増加傾向にある さらに政府もインターン制度を後押しする。22年に行われた3省合意(文部科学省・厚生労働省・経済産業省の合意)では、「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」として、25年卒の学生を対象に、インターンの制度改正を行った。 最も大きな変更点は、「5日間以上、かつ、一定の基準を満たすインターン」で取得した学生情報を採用活動で使用可能としたことだ。これまでインターンは採用目的での実施が名目上禁止されていた。だが、この改正により企業は正式に採用目的でのインターンを実施できるようになった。 熱を帯びるインターン市場で注目されているのが、「長期インターン」だ。数週間から数年ほどの長期間、学生が企業に勤め、業務を経験する。学生が実務に携わる場合、企業は給与を支払うケースが多い。業種は営業、マーケティング、IT(情報技術)など様々。ベンチャー企業での実施例が多いといわれる。 インターンの普及に伴って、求人も増えている。3カ月以上の長期インターンの求人を専門に掲載するあるサイトでは、これまで累計2000社以上の企業が求人を掲載し、学生の累計登録者数は10万人に上る。同サイトの運営会社の代表者によると、企業、利用者とも年々、増加しているという。 しかし、長期インターンの中には、「ブラックインターン」とも呼ぶべき、悪質なインターンも存在する。インターンとは名ばかりで、実際には長期にわたり学生を低賃金で働かせているケースだ。
学生にとってインターンは就職活動の一環とも言える。目指す企業のインターンに参加することはもちろんのこと、インターンを経験していること自体が、就活時のアピールポイントにもなるからだ。 そうした学生の心理につけ込むのがブラックインターンの典型的な手口だ。例えば、あるサイトでは「超大手優良企業A社・B社などに内定」などと、インターン経験者の内定実績を募集タイトルに記載している。あたかも、そのインターンを経験すれば、A社・B社に内定するかのような書き方で学生を誘う。さらに「ガクチカ(学生時代頑張ったこと・力を入れたこと)に役立つ」「就活強者になれる」などとうたっている掲載例もある。 ●訪問営業要員として働かせる こうしたブラックインターンでは、募集した学生をインターンの趣旨とはほど遠い、単なる安価なアルバイトとして働かせているのが実態だ。例えば、ある住宅設備の販売会社では、約300人以上の学生がインターンとして全国の支部で働いているとホームページのインターン募集要項に記載している。業務内容は「アポインター」で、住宅設備の営業のアポイントを取得するための訪問営業だ。給与は成果報酬制で労働日数、曜日の目安を示している。この企業が学生とどのような契約を結んでいるかは定かではないが、時給制ではなく、成果報酬制であることから、雇用契約ではなく業務委託契約ではないかと推測できる。 こうした行為は契約違反にはならないのだろうか。労働法に詳しい浅野総合法律事務所の鰺坂和浩弁護士は「就業体験を目的とするインターンにおいて、業務委託契約を用いることが適切とは考えづらい」と指摘する。「このようなケースでは、偽装請負(実質的に労働者派遣であるにもかかわらず、業務委託契約のように偽装する行為)と判断される可能性が高い」(鰺坂弁護士)。 業務委託契約は雇用契約と異なり、企業は最低賃金を保証する必要がなく、社会保険などの福利厚生の負担もない。この会社ではコストを削減する方法として業務委託契約を利用していると考えられるが、これが偽装請負だと判断されれば、違法行為となる。 オンラインセミナーの教材を販売する長期インターンに参加しているある学生は「アポインターとして一定時間勤務し、アポイントを取ったにもかかわらず、給与を得られない月があった」と打ち明ける。アポイント後、別の社員に引き継ぎ、最終的に契約成立には至らなかったことがその理由だったという。
若手労働者を中心に労働問題に関する支援を行うNPO法人POSSEには、インターンに関する学生からの問い合わせが多数寄せられている。「報酬が最低賃金を下回る、日給2000円だった」「実態がアルバイト業務であるのに、インターンだとして給与を支払われなかった」など、ブラックな労働環境が露呈する。 代表を務める今野晴貴氏は「インターンであるかどうかにかかわらず、実質的な労働と見なされれば、企業は給与を支払う義務が生じる。ブラックインターンに関する問い合わせは増加傾向にある」と明かす。 このようなインターンは、ほかにも複数存在している。就活支援サイト「dodaキャンパス」の岡本信也編集長は、「学生が主体になるような良質な長期インターンは少ない。人の集まりくい職種をインターンと称して募集していることもある」と話す。 それでも学生が長期インターンに参加するのは、新卒採用において、インターン経験が有利に働くという実情があるからだ。岡本氏は「長期インターンの経験をガクチカにする学生は増加している。採用を行う企業側にも、長期インターンを経験した学生は社会人としての基礎的なスキルが備わっているとして、一定のニーズがある」と指摘する。 企業に提出するエントリーシート(ES)でも、たいていの企業が「インターンの経験について教えてください」という記述欄を設けている。先述した会社が「A社・B社などに内定」とうたっているように、多くの長期インターンの募集要項には、インターン経験者の内定実績として大企業の名前がずらりと並ぶ。インターン生にとって長期インターンは、他社の採用選考で有利になる手段となっているのが現状だ。 ●新卒採用の早期化が弊害に ブラックインターンは、新卒採用が早期化しすぎたことの弊害ともいえる。一般的に採用選考が始まる大学3年生の春(2~3月)までに、学業やスポーツなどで目立った成果を残すことは困難だ。そのため、採用選考が始まる前までに長期インターンを終えておこうとする学生が多い。不人気な仕事や実質的に単なる安価なアルバイトだとしてもインターンというラベルを貼るだけで、何かしらのインターンをする必要に迫られた学生の見る目は変わる。 ブラックインターンに参加した学生が、違法性について声を上げるケースも少ない。労働法に詳しくない多くの学生が違法性を認知することは難しく、企業側から「これはインターンだから」と言われて、給与などについても丸め込まれるケースが多い。一方、学生にとっても、実際にインターン経験によって採用選考に有利になったと感じられれば、実態がブラックであっても問題視することはないだろう。先述した住宅設備の販売会社はインターンの特設ページを設けており、ホンモノかどうかは分からないが、インターン卒業生による会社への感謝の作文が、多数掲載されている。 もっとも、全体的に見ればブラックインターンは一部にとどまっているという。企業に対する学生の評判は、SNSなどで拡散され、企業の採用活動やブランドイメージにも影響する可能性がある。ブラックインターンを実施すれば、すぐに悪評が立ち、ブラック企業の烙印(らくいん)を押されかねない。そのため、時給制で学生を雇用し、適切な給与を支払い、学生の満足度を高めるため、インターン制度を改善したり工夫したりするなどの努力をしている企業も多い。 インターン自体は、学生と企業のミスマッチを防ぐための取り組みとして有効な手段だ。だが、制度改正を経てもなお実態に追いついていないのが現状だ。ブラックインターンをなくすためには、さらなるルール作りが不可欠だ。
佐々木 大智