Hulu(フールー)にNetflix(ネットフリックス)などの映像配信や音楽配信、家電からブランドバッグ、美容院まで。料金定額制の『サブスクリプション』というサービスがいま、話題を集めている。
「手元になくとも必要な瞬間にあれば」
サブスク事情に詳しいITジャーナリストの三上洋さんによると、
「サブスクリプションとは、ひとつずつ購入して利用していた物やサービスを、月や年などの期間で契約し代金を支払うことで、まとめて利用できるようになるサービスのこと。消費スタイルのひとつとして定着しつつあります。最近では“◯◯放題”という言葉が強調されるようになりました」
海外で浸透していたサブスクリプションが日本上陸を果たしたのは2016年ごろから。’15年に日本でサービスを開始したNetflixや音楽配信サービスのApple Music(アップルミュージック)などが普及し始めるにつれ、さまざまな分野に拡大していった。
なぜいま、サブスクが盛り上がりを見せているのか?
「かつて日本では、高級品を持つことがある種のステータスだとされてきました。しかし、バブル経済の崩壊以降は、非正規雇用なども目立つ経済状況下で、収入の悪化により憧れの品物を手に入れられなくともよいという風潮が生まれてきた。
そこから派生したのが“所有から利用へ”という価値観。ネット決済の普及もあり、手元になくとも必要な瞬間にあればよいと思う消費者へ向けてサブスクが浸透していきました」(三上さん、以下同)
最近では、飲食やアパレルなど、参入する業種に広がりが生まれ始めている。
「消費者にとっては、ブランド品など高価だったはずの品物をお得に使えるのがメリットのひとつといえます。女性向けでいえば、ファッションや美容・ヘルスケアといった業種では、自分で手に取る機会のなかったアイテムやサービスを試せる可能性もあります。
必ずしも好みに合った品物が届かない場合もあるとはいえ、企業側がそれに近い洋服やアクセサリーなど送ってくれるので、商品選びの手間をあらかじめ省いてくれるのも利点だと思います」
企業にとってもサブスクにはメリットがある。利用する量や時間などで料金が変わるシェアやレンタルと違いサブスクは基本、定額制。そのため定期的に収益を得られ、新たな顧客が獲得できる可能性があると参入が相次ぐようになった。
特定のファン層を掴むと強い
しかし、三上さんは「成功モデルはごくわずか」だと、現状を俯瞰(ふかん)する。
「企業側は目標の会員数から逆算して、1人あたりにかかる平均的なコストを算出します。本来、1つずつモノやサービスを提供する売り方とは異なり、会費として一定の収益を上げられるのはメリットですが、初めから満足のいく会員数を確保できるわけではないために少なくとも軌道に乗るまでは赤字を覚悟するリスクもあります。
また、定額で使える範囲の商品が好みに合わず、利用者とのミスマッチが起きる場合も考えられる。従来の売り方とは異なる工夫が求められるのも課題です」
まだまだ黎明期といえる段階のサブスク。今後、私たちの生活にどう浸透していくのだろう?
「例えば、コンタクトレンズが月額制で利用できる『メニコン』の『メルスプラン』のように、定期的に買う必要があり、消費者にもメリットがある消耗品系のサービスは今後、増えていく可能性があります。
おそらく牽引しやすいのは、不特定多数を狙った業種ではなく、特定のファン層に特化したような業種。『セブン-イレブン』の手がける弁当宅配サービス『セブンミール』のように、高齢者に便利なサービスも増えていくでしょう。対象となる年齢層も選択肢も今後さらに幅広くなっていくはずですので、サブスクはより私たちの生活に身近な存在になっていくと思います」
さまざまなサービスが日を追うごとに登場している現状もあるが、業種や内容をうまく見極めて使いこなせば、消費者にとっての利便性も得られる。
では、サブスクリプションはどんな層によく利用されているのだろうか? 専門家からは意外な答えが返ってきた。
サブスクは若者の生活を変える?
前述のとおり、目新しさも手伝い話題のサブスクリプション。音楽や映像配信をはじめ、多くのサービスはスマートフォンやタブレット端末経由で利用することもあり、いつでも使える手軽さから10代や20代の若者にも浸透し始めている。
しかし、実際には「30代〜40代の男性が主な利用者層」と指摘するのは、若者研究の第一人者・原田曜平さんだ。
「確かに音楽系や映像系のサブスクリプションを利用する若者は少なくなく、学校の休み時間などに同級生と共有しながら、恋愛リアリティー番組を見るなどの楽しみ方をしています。しかし利用はしていても、課金しているかというとそれは少ない。その理由は、不景気感の漂う中で、消費傾向が変化してきたからなんです。
例えば、高校生1人あたりの小遣いの平均が3000〜5000円。働いている20代の手取り年収も200万円を下回るといわれ、とにかくお金を持っていない若者たちが目立ちます。そのため、過去の日本のように“自分で稼いでいいモノを手に入れる”という価値観は薄れ、娯楽に自分の給料などを費やす人たちはごく一部の印象です」(原田さん、以下同)
では、彼らが利用するサービスの代金は誰が支払っているのか。その背景にあるのが「親子消費」と呼ばれるキーワードだ。
「近年、経済的に注目されているのが、2世代にわたって一緒に娯楽を楽しむという文化。かつての日本と比べると親子の関係性が変化しており、例えば母と息子のように異性同士であっても、親子で旅行に行ったり、ご飯を楽しむといった傾向にあります。
なので、サブスクも親世代が入っているものを使ったり、親に頼んで入ったサービスを子どもたちが利用したりする。そういったケースが多く見られますね」
若いうちは親子で旅行なんて面倒だったり、恥ずかしいなんて考えはひと昔前。サブスクに関しても、子どもたちは親と上手に付き合い、賢く消費しているのだ。
「いまは個々人の趣味嗜好が細分化されつつあります。若者はより顕著なのですが、彼らがお金をかけないというのは誤解で、実際には興味があるところにはきちんと費やしています。例えば、フリマアプリ『メルカリ』でブランド物を買い求める子たちもいますが、価格の高低にかかわらず、必要と思うものがあればお金を出しています。
つまり、若者の多くが価値を感じる強烈なコンテンツがあれば今後、サブスク消費が進む可能性はあると思います。アメリカやヨーロッパでは、Netflixを見ないと、クラスの話題についていけないという状況がすでに起きています。日本も最近になってようやくその兆しが見え始めてきたところ。サブスクがさらに浸透し、サービスが充実していけば変わっていくかもしれません」
《PROFILE》
三上 洋さん ◎ITジャーナリスト。セキュリティーやスマートフォン、クレジットカードや電子マネーなどの節約・活用術に精通
原田 曜平さん ◎マーケティングアナリスト。若者やメディアを中心に次世代に関わるさまざまな研究を実施