20世紀最大の発明とも言われるプラスチック。軽くて丈夫で加工しやすいという優れた特性から、瞬く間に世界中に普及した。
しかし、主な原料は化石燃料の石油であり、丈夫さゆえに自然環境で分解されるまでに長い年月を要することから、今では気候変動や海洋汚染といった問題の要因として槍玉に挙げられている。
日本を含む世界各国でプラスチックの規制が進み、社会はプラスチックを諸悪の根源のように扱っているが、本当にそれで根本的な問題解決につながるのだろうか。
あえてプラスチックのポジティブな側面に目を向けることで、問題の本質に迫る。
プラスチック問題の現状
まずはプラスチック問題の現状を見てみよう。
今までに約83億トンを超えるプラスチックが生産され、そのうちの63億トン以上がごみとして廃棄されたが、いまだにたった9%しかリサイクルされておらず、79%は手つかずの状態となっている。
毎年約800万トンものプラスチックが海に流れ出ており、地球の海を漂うプラスチックは合計で1.5億トン。
このままでは、2050年までに海洋プラスチックの総重量が魚の総重量を超えると予測されている。
増加し続けるプラスチックによって地球が危機的状況にあり、世界中で対策が急がれているのだ。
なぜプラスチックが生まれたのか
一説によると、プラスチックが初めて実用化されたのは、ビリヤードの玉だといわれている。 © Forbes JAPAN 提供
当時ビリヤードの球は象牙からできており、毎年少なくとも45万3000kgもの象牙が消費されていた。
象の絶滅を心配した会社が賞金1万ドルをかけて代替素材を公募した際、印刷工ジョン・ウェズリー・ハイアットが最初の工業用プラスチック「セルロイド」を発明。
もともとは「象を守るため」という動物愛護的な理由で開発された素材なのだ。
新型コロナウイルスの感染防止に活躍
新型コロナウイルスの感染防止のために用いられるマスク、フェイスガード、アクリル板、テイクアウト用の容器などは、ほとんどがプラスチックを原料としている。 © Forbes JAPAN 提供
コロナ禍には世界中で毎月およそ1290億枚の使い捨てマスクと650億枚の使い捨て手袋が利用され、環境汚染が課題となっているが、それだけ感染防止の役に立っていると捉えることもできるだろう。
私たちの衛生環境を守るには欠かせない存在なのだ。
レジ袋はエコバックよりエコ?
日本では2020年7月から有料化されたレジ袋。
脱プラスチックの意識が高まり、エコバッグを持ち歩く人は増えたが、実はレジ袋のほうがエコだとする研究もある。 © Forbes JAPAN 提供
イギリスの環境庁の研究で、コットン製バッグの場合、レジ袋より温暖化リスクを小さくするためには131回以上使う必要があるという結果が出たのだ。これはレジ袋を再利用しない前提で算出した数値であるため、実際はさらに多くなる。
また、ポリプロピレン製の不織布バッグであれば、11回以上使用すればレジ袋より環境負荷が小さくなることがわかった。
もっとも、海洋プラスチック問題への影響を考慮するとどちらのほうが環境に優しいと言い切ることはできないが、温暖化への影響のみを考えるのであればプラスチックはエコであると言える。
食品ロスの削減に貢献
プラスチックは食品ロスの削減にも貢献している。
プラスチックの包装容器は食品の腐敗を防ぐ効果があり、賞味期限を長くできるのだ。
世界全体でみると、作られた食べ物の1/3が食べられることなく腐敗して埋め立てられ、メタンガスを放出している。
日本では捨てられた食品は処理工場に運ばれ可燃ごみとして処分されるが、運搬や焼却の際に二酸化炭素を排出し、焼却後の灰の埋め立ても環境負荷につながる。
また、プラスチック包装は密閉性が高いため、食中毒のリスクを減らすことができる。
代替品にも問題がある © Forbes JAPAN 提供
近年、プラスチックの代わりにさまざまな素材が用いられているが、ほとんどの場合は代替品にも何かしら問題がある。
例えば、容器やストローに使われている紙は再利用が難しく、需要が高まることで森林破壊につながる可能性があり、衣服の素材となるコットンは、生産過程で大量の水と農薬を使用する。
かつては象の乱獲を防いだプラスチックが、大量に使われるようになったことで環境を汚染しているように、どの素材もバランスを考えて使わなければならないのだ。
真の悪者は大量生産・大量消費 © Forbes JAPAN 提供
私はこの記事を通してプラスチックの使用を推進したいわけではない。
プラスチックを悪者扱いすると問題が矮小化することを伝え、無駄な消費を見直すきっかけを与えたいのだ。
「紙だから」「竹だから」という理由で無駄に使い捨てしていては本末転倒である。
使えば使うほど環境が良くなる夢の素材が発明されない限り、大量生産・大量消費社会は地球を破滅へと導く。
常に新しいものを求めるのではなく、今あるものに目を向け、足るを知ることが大切なのだ。
私たちにできること
地球の未来に危機感を覚える人が増え、ごみをゼロにすることを目標に生活する「ゼロ・ウェイスト」という考え方が広まっている。
日本は1人あたりのプラスチック容器包装の廃棄量が世界2位であり、完全に避けることは難しいかもしれないが、少しずつできることから始めていけば未来は変えられる。
最も大切なのは「本当に気に入ったものしか買わない」こと。
1つ1つのものを丁寧に選び、愛着を持ってできる限り長く使っていこう。
【参考】