プリウスは実質20万円高に-補助金終了、消費増税で自動車販売低迷も

8月20日(ブルームバーグ):自動車の国内販売を下支えしてきたエコカー補助金が9月にも予算額を消化して終了する見通しだ。今後の消費増税も含めると、実質購入価格の上昇で、自動車需要の大幅な減少が懸念され、業界からは補助金継続や現行の自動車諸税の軽減・廃止など政府へ対策を求める声が高まっている。
環境対応などに優れた新車購入促進のため政府が導入したエコカー補助金は、来年2月末まで申請受付の予定だったが、総額約3000億円の予算の残額が少なくなりつつある。次世代自動車振興センターのウェブサイトによると、16日時点の補助金残額は約365億円。直近の申請ペースから想定すると、9月早々にも底をつく見通しだ。日本自動車工業会の豊田章男会長は7月19日の定例会見で、「何かしらの影響はある」と販売への懸念を表明した。
日本自動車販売協会連合会の統計によると、今年1-7月の国内新車販売台数は東日本大震災からの回復もあり、前年同期比52%増の218.5万台だった。クレディ・スイス証券でアナリストを務めてきた塩原邦彦氏は、前回の補助金が打ち切られた2010年の事例を踏まえ、補助金終了後は同20-25%程度の販売台数減が2四半期にわたって続くとみている。
さらに販売の追い打ちとなるのは消費増税だ。現行5%の税率を14年4月に8%、15年10月に10%へ引き上げることを柱とした消費増税法が8月10日に可決・成立した。
国内販売ランキング首位、トヨタ自動車のプリウスのメーカー希望小売価格は最安モデルで206万6667円。消費税込みでは217万円だが、エコカー補助金がある間は実質207万円で購入できる。補助金終了に加えて、消費税率が10%まで引き上げられると実質価格は約227万円となり、購入者は現在と比べ20万円以上の負担増になる。
長期的に影響が出る可能性
塩原氏は「車の保有コストが上がると、家計に余裕のない人は車の所有をあきらめる人が出てきて、国全体の保有台数が減っていく可能性がある」と述べ、一次的な販売減速にとどまらず、保有ベースの縮小から乗り換え需要減など長期的に影響が出る可能性を指摘した。
消費税率が3%から5%に引き上げられた97年4月以降、国内の自動車販売は大幅に落ち込んだ。自工会の統計によると、97年度の軽自動車やトラックを含む四輪販売台数は前年度比14%減の627.5万台となった。下落幅としてはリーマンショックがあった08年度の12%減よりも悪い。国内の自動車販売台数はそれ以降、一度もその水準まで回復せず、昨年度は475.3万台だった。
日産自動車のアンディ・パーマー副社長は7月、「われわれとしてはこうした補助金が継続されることを心から望んでいる」と話した。また、日産自の志賀俊之・最高執行責任者(COO)は8月9日、消費増税が購入者の負担増にならないように、増税までに自動車諸税の軽減・廃止をするべきだとの考えを示した。
自動車諸税は9種類8兆円
トヨタ社長も務める豊田氏は、自動車取得税や自動車重量税など、自動車諸税は9種類8兆円になると指摘した上で、「特に地方で車は公共の乗り物。車ユーザーは国民の1人であるという認識をいただき、普通のサイクルで買い替えられる体制になるようにお願いしたい」と述べ、想定される販売の減少に対して何らかの対策を要望している。
「車自体安いものではないので、消費税も、税金も高くなる。長い目で見ると、車の販売は厳しくなるのではないか」-。都内でトヨタ車を販売するニュートヨ赤坂店の宮崎伸啓主任は取材にこう話した。人気車種は納車まで時間がかかり、補助金終了に間に合わない可能性があることを顧客も知っているため、取材した7月時点で駆け込み需要は発生していないとしながら、今後の販売動向への懸念を示した。
エコカー補助金の再設定も
自動車調査会社、IHSオートモーティブの川野義昭アナリストはインタビューで、政府は消費増税に際してエコカー補助金を再設定する可能性はあると話す。「増税で予想される消費の鈍化は避けようとするはずだ」と述べ、政府が増税を計画する14年度までに1年か1年半程度の期間で実施されるのではないかと語った。
塩原氏は、自動車メーカーや国内ディーラーにとっては、補助金がなくなることで悪化する収益をどう吸収するかが問題になると話す。昔は国内の採算が悪化しても輸出を増やせばそれほど影響は出なかったが、今の円高ではそれも難しいと指摘した上で、「ここからの販売減を補うとなるとディーラーをつぶすしかない。ディーラー網の統合ということも起こるかもしれない」と話した。
塩原氏はさらに、自動車業界にとっては「人口減少に逆行していかに自動車保有台数を維持していくかということが課題」と指摘した上で、「国の予算や財政の制約がある中でどうすれば保有コストを下げることができるか、財政を抜本から考え直す必要がある」と話した。
消費増税をめぐっては、安住淳財務相が7月23日の参院・社会保障と税の一体改革に関する特別委員会で、自動車などの駆け込み需要の反動減や自動車関連税での2重課税の問題に関して「具体的にユーザーの負担を軽減するような方向で考えていきたい」と答弁した。
記事についての記者への問い合わせ先:大阪 堀江政嗣 mhorie3@bloomberg.net
記事に関するエディターへの問い合わせ先:東京 大久保義人 yokubo1@bloomberg.net東京 Young-Sam Cho ycho2@bloomberg.net
堀江政嗣/馬傑

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