【社会部オンデマンド】
「先日、コンビニでプリペイド式携帯が販売されていました。興味本位で購入してみましたが、プリペイド式携帯はどのくらいの割合で普及しているのでしょうか」=東京都江戸川区の40代の男性
■減り続ける契約数
電気通信事業者協会(TCA)によると、10月末現在のプリペイド式携帯の契約数は、NTTドコモ約2万9500件▽au約32万8400件▽ソフトバンク約77万6300件-で、計113万4200件。携帯電話全体の契約数約1億1590万件の1%未満にとどまっている。
3年前の平成19年10月末と比較すると、携帯電話全体の契約数が約9960万件から順調に増加している一方、プリペイド式携帯の契約数は約215万件からほぼ半減している。
各社とも10年前後からサービスを開始したプリペイド式携帯。事前に支払いを済ませるため、使いすぎて後で多額の請求を受けることがないことや、本人確認をせずに気軽に購入できるメリットから普及が進んだ。特に親が子供に持たせたり、日本に短期滞在する外国人が使用するケースなどで重宝されていた。
しかし、販売開始から数年がたった12年ごろに大きな転換期が訪れる。購入時に本人確認がないことを悪用され、振り込め詐欺などの犯罪に利用されるようになったからだ。
プリペイド式携帯の在り方が大きな社会問題となり、対応を迫られた各社は12年7月、業界で一斉にプリペイド式携帯の購入者の本人確認を徹底することに踏み切った。その後、17年5月には携帯電話不正利用防止法が一部施行され、購入時の確認などが厳格化されたため、「手軽に購入できる」というプリペイド式携帯のメリットは失われていった。
■衰退か維持か
「プリペイド式携帯は携帯電話の導入時期に、気軽に接してもらうという役割を担っていた。しかし、携帯電話がこれだけ浸透した今となってはその役割も終わったといえるでしょう」
NTTドコモ販売部の作田淳一郎・マイグレーションデザイン担当課長は、こう明言する。同社は13年3月末に契約数のピークを迎え約21万2千台を販売したが、犯罪に悪用されることで携帯電話全体のイメージが悪化することを懸念。17年3月末で、新規契約の受け付けを終了した。同社のプリペイド式携帯は現在も使用可能だが、24年3月末には完全にサービスの利用ができなくなる。
作田担当課長は「こちらの意に反していたとはいえ、結果として犯罪に使われ社会問題になったものを復活させることはできない」と話した。
国内で最初にプリペイド式携帯を販売したツーカーを合併したKDDIも今後の販路拡大には消極的だ。KDDIは販売開始当初、全国のコンビニでも端末とプリぺイドカードをセットで販売していたが、本人確認を強化したためコンビニの業態とあわなくなり、撤退。新規契約の受け付けは現在もauショップや家電量販店で継続しているが、契約数拡大のキャンペーンなどは行っていない。
同社コンシューマサービス開発部サービス1グループの伊藤彰敏担当部長は「一般の携帯電話でも契約内容で利用額を制限することもできる。普通の携帯と料金の差もない」とし、一般の携帯でプリペイド式携帯利用者のニーズをカバーできると説明した。
この2社の動きに対して、プリペイド式携帯の販売に力を入れているのがソフトバンクだ。同社のプロダクト・マーケティング本部MD第3課の吉田憲司課長は「プリペイド携帯のニーズはまだある」と話す。同社は数年前からコンビニでの販売を強化し、課題や普及方法について調査を重ねてきた。今年8~9月にはテレビコマーシャルでPR。TCAによると、ソフトバンクのプリペイド式携帯の契約数は10月末までの7カ月間で約13万8800件の増加となっており、3社の中で唯一、契約数が伸びている。
吉田課長は販売時にコンビニでも本人確認は徹底していると指摘した上で、「着信専用として利用したり、使いたいときだけ使うなどのニーズはまだある。これを絶やしてしまうのはサービス低下につながる」と話し、今後も販売に力を入れていく考えだ。
携帯電話各社によって販売方針が異なるプリペイド式携帯。今後、サービスが完全に無くなるのか、それとも一定の契約数が維持されるのか。各社の方針だけでなく、利用者のモラルも一つの鍵になりそうだ。(大島悠亮)