プレゼンで「えーと」「あのー」を言ってしまう5つの理由

 以前、ある場所でプレゼンテーションをしたときのこと。プレゼン後、参加者からもらった感想の1つに「『え~と』や『あの~』をほとんど言ってなくて素晴らしかった」というものがありました。
 確かに、これまでにもさまざまなプレゼンを目にしてきましたが「えーと」「あのー」が目立つプレゼンもしばしば。「えーと」「あのー」と連発してしまうと、間延びしてプレゼンのリズム感が失われてしまったり、頼りない印象を与えてしまったりします。聴き手に信頼感を与えるためにも、これらの「場つなぎ音」は極力減らしていくべきことが望ましいでしょう。
 とはいえ、これらの言葉が出てしまうのにはいくつか理由があります。要は話すべき内容を思い出せず、沈黙を埋めるためについ発声してしまうことが直接的な原因ではないでしょうか。ここでは「では、なぜ話すべき内容を思い出せないのか」といったあたりを中心に5つの理由を考えてみたいと思います。
1. 単に練習不足
2. ストーリーが固まっていない
3. 実は心から話したい内容ではない
4. 準備してきたことを全部話さなければならないという思いこみ
5. 沈黙に対する恐怖
●1:単に練習不足
 話す内容がとっさに思い出せないのは、(当然のことですが)第一に事前練習が足りないからと考えられます。本番においてどこで何を話すかが思い出せず、間を持たせるために「えーと」と言ってしまう。
 私は仕事でプレゼンテーションを指導することがありますが、発表者がプレゼンをした後で「どれくらいのリハーサルをしましたか」と聞いてみると、案外多くの人がリハーサルをしていないと答えるのに驚かされます。多くの場合「プレゼン資料の作成に時間をかけ過ぎてしまった」というのがその理由です。
 よい資料を作り込みたいという気持ちは理解できますが、いくらよい資料を作っても話がイマイチでは総合的によい印象を与えられません。時間ギリギリまで資料を作り込むのは避け、リハーサルを繰り返す時間を確保しましょう(できれば3回、最悪でも1回は練習しておきたいところ。プレゼンがうまいことでも有名な米Appleのスティーブ・ジョブズ氏も、相当入念なリハーサルを行っているそうです)。
●2:ストーリーが固まっていない
 話す内容を頭に入れておくためには、1で書いたように練習を重ねることがまず肝心。しかし、その一方で、そもそもストーリーが不自然なプレゼンは、なかなか内容が頭に入りにくいものです。
 人は、電話番号や英単語はなかなか覚えられませんが、小さいころに読んだ童話や昔観た映画のストーリーは今でも覚えていたりします。近年あちこちで「物語」の重要性が叫ばれていますが、人はものごとを「文脈」で関連づけて頭に入れる習性があるようです。
 従って、自然な流れで作ったストーリーや自分でしっかりと構成したストーリーは頭に入りやすくなります。プレゼンをしながら、次にどのようなことを話すかが脳内でイメージしやすいですから、たとえ細部は忘れてしまったとしても、話の骨格はなかなか忘れません。
 逆に、そうでないプレゼンはスムーズに話しにくく、話し手自身が「どこか変だな……」と違和感を覚えながら話すことになります。その結果「えーと」を連発するわけです(そして、当然ながらそのようなストーリーは聴衆にとっても理解しづらいわけです)。
 PowerPointのスライド1枚1枚で話す内容を確認しておくことも必要ですが、全体の流れで捉えた際に話の飛躍や不整合などがないかについても確認するようにしてみてください。
●3:実は心から話したい内容ではない
 話すべき内容が覚えられないというのは、練習不足やストーリーの練り込み不足の他に「実はそもそも話したい内容ではない」という理由も考えられます。
 プレゼンで話す内容は練習をすればするほど覚えられますが、そもそも人に心から伝えたい内容(例:自分の熱い思い、自分の発見や気づき、自分がひらめいたアイディア、自分の強い問題意識、自分がほれ込んだ商品、etc……)であれば練習などしなくても簡単には忘れたりはしない、とも言えます。
 練習を繰り返してもうまく話が出てこないようなら、上記の2を検討すると同時に「これはそもそも心から伝えたい内容なのか」を吟味する必要があるかも知れません。
●4:準備してきたことを全部話さなければならないという思いこみ
 話す内容を頭に入れることも大切ですが、一方で「忘れてしまっていても気にしない」ことも肝心です。準備してきた話を全部話そうとすると、内容をど忘れしたときにパニックに陥りプレゼン全体に悪影響を及ぼしがち。「1個や2個話し忘れるのは当たり前」「用意した内容の7~8割話せれば御の字」と いう心意気でプレゼンに臨みましょう。
 私も以前、あるプレゼンにおいて用意したネタを1つまるごと話すのを忘れており、後で気づいて「しまった」と思ったことがありました。ですが、どうしても話さなければならないネタというわけでもありませんでしたので、まあいいかと割り切りったのです。
 話す内容はしっかりと準備、練習した上で、本番では2~3割抜けてもいいやと思うこと。プレゼンの途中で「あ、あの話するの忘れた!」と思い出しても、 そこに固執せずに気を取り直して話を続けること。気にし出してしまうとそれに気をとられてしまい、ほかの話までもがガタガタになってきてしまいます。
●5:沈黙に対する恐怖
  PowerPointのページの切り替わりなどで、次に話すべき内容を思い出そうとする際に「沈黙」ができてしまうのが怖いという理由も考えられます。確かに話の合間で会場が「しーん」とする瞬間は、話し手の不安が強く増します。「何か話さなければ」という気にさせられます。実際に3秒程度の沈黙でも、話し手には非常に長く感じられるでしょう。そこで沈黙を埋めるために「えーと」が出てしまうのです。
 しかしながら、「沈黙」は聴衆のために必要な要素であります。沈黙のないプレゼンは、音楽で例えるなら「休符のない曲」のようなもの。「休符も音楽のうち」という言葉がありますが、音楽は、休符があるからこそ音の余韻を味わったり、曲にリズム感を持たせることができるわけです。休まず鳴りっぱなしの音楽は疲れますよね。
 ちなみに、わざと休みをとらないように書かれたクラシックの曲もありますが(「常動曲」と言います)、こんな曲のノリでプレゼンをされたら 聴衆は息が詰まってしょうがないでしょう。
 「沈黙もスピーチのうち」だと認識してください。沈黙があるからこそ、スピーチにメリハリがつけられます。ぜひ勇気を持って「沈黙」してください。
 以上、5つの理由を考察してみました。
 最後にアドバイスをもう1つ、「自分のプレゼンを録画(録音)して観てみる」ことをおすすめします。私もプレゼンの指導をする際には極力、そのプレゼンを録画または録音するようにしていますが、それを発表者と一緒に観てみると、多くの方が「こんなに『えーと』言ってるの!?」と驚かれます。それだけ、我々は「えーと」「あのー」を無意識に使っているのです。
 「えーと」「あのー」の連発は、単に耳障りというだけでなく、これまで述べてきたように「練習不足なのでは」「自分の意見に自信がないのでは」という疑念を聴衆に抱かせてしまいます。それが信頼感を損なっているわけです。一方で、「えーと」「あのー」を減らすことさえできれば大幅に改善するプレゼンも多々あると感じています。
 「今回は30回言ってしまっていたから、次は10回まで減らそう」といったように、ビデオカメラやICレコーダーを活用して、定量的に目標を設定して達成していくことを心がけてみてください。【井上龍司,Business Media 誠】

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