来年度から小学校で必修化されるプログラミング教育。コンピューターを指示通りに動かす体験から「論理的な思考」の習得を目指す。と、しばしばこう説明されるが、実際のところ何をやるのか、いまいちよく分からない。子供たちに身に付けさせようとしている力とは何か、中央大国際情報学部の岡嶋裕史教授に聞いた。(玉崎栄次)
相手に伝える話し方
--論理的な思考とは
簡単にいうと、「筋道を立てて話しましょう」ということ。例えば、料理中にキッチンを離れるとき、私たちは「お鍋を見ておいて」という。言外に「火加減を調節して」という要望などが含まれる。だが、幼児なら吹きこぼれても鍋をただ見続けるかもしれない。それは、大人と子供の経験値の違いから起こる。
経験値の異なる他者、つまり言葉や文化、知的水準、世代が異なる人とコミュニケーションを円滑に行うには、〝相手に伝わる〟話し方が必要となる。吹きこぼれが起こる火加減や、そうさせないための対策などを分かりやすく伝えられなければならない。そのためには自分自身が問題点を理解するのが前提となる。
この点を理解していなければ、コミュニケーションが破綻する。上司が部下に「契約を取ってこい」「俺の頃は自分で学んだ」などとやみくもに怒鳴るケースがあるが、社会が複雑化した現代の若者には通じず、生産性は上がらない。
--なぜプログラミングでなければならないのか
コンピューターは人間のように気が利かない。気合も通じないし、忖度(そんたく)もしてくれない。的確な指示を与えなければ動かない。成功も失敗も目に見え、ゴールへと至る筋道が分かりやすいので、論理的な思考の訓練にぴったりだ。
どんなに複雑な動きをするロボットのプログラムも、「ボタンを押すと1歩進む」などの単純なパーツに分解できる。その順番や、さまざまな条件に応じた分岐命令(「右に回ったとき、音を出す」など)を試行錯誤し、組み立てていくことで成立している。
■「分割」して考える
--将来、役立つのか
例えば、豪華客船の製造プロジェクトを任されたとしよう。途方に暮れるかもしれない。しかし、論理的に考え、製造工程(コンピューターへの指示に当たる)をパーツに分割してみると問題点が見えてくるはずだ。船体を甲板、スクリュー、客室と分けていく。次に、客室を机、ベッド、鏡などに。机は木材やくぎに分割され、まず木材をくぎ打ちするところから始めてみよう。このように分割することで問題が単純化され、身近に考えられるようになる。
全容を理解できたところで、パーツを組み立てていく。木材選びは、価格をベースに頑丈さを決めるのか、それとも踏み心地を優先するのか。どんな職人がどれくらい必要か、納期を短縮できないかなど、試行錯誤することで問題解決に進んでいく。
--課題は
学校だけで十分なプログラミング教育ができるのが理想だ。しかし、ノウハウや人材、予算の不足などから現時点ではそれは難しそうだ。すると、塾通いなどが必要になるが、塾は都市部に集中し、地域格差が生じる。経済的に家計の負担となる。地域や経済の格差が教育格差を生み、さらに経済格差につながるという負のスパイラルが起きないか心配している。公教育の充実と、私教育をどれだけ安価に提供できるかにかかっている。
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【プロフィル】岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 昭和47年、東京都生まれ。専攻は情報セキュリティー。富士総合研究所、関東学院大情報科学センター所長などを経て現職。著書に「プログラミング教育はいらない GAFAで求められる力とは?」(光文社新書)など。