ホウレンソウ出荷激減、アスパラは奇形芽 記録的猛暑、東北の野菜産地にも打撃

9月も続いた記録的猛暑で、東北の野菜産地が打撃を受けている。夏野菜のキュウリやトマトに加え、長ネギやホウレンソウ、ダイコンなど葉物や根菜にも影響が及ぶ。収穫量の減少や品質の低下で市場への入荷が少なく、卸値は高騰している。

 6県で記録的猛暑の被害を受けた主な野菜は表の通り。

 仙台市中央卸売市場(若林区)によると、例年この時期に大半を占める宮城産ホウレンソウは出荷がほとんどない状態。宮城産が主産地となるはずの長ネギも細く、先端が傷んだ物が多いという。

 青森では、ダイコンとニンジンの出荷量が平年より2、3割減るとの予測もある。ダイコンは内部が褐色になる「黒芯症」「赤芯症」が多発。JA全農あおもりは「朝晩も高温が続いて農薬をまくタイミングがなく、虫害も拡大した」と説明する。ニンジンも雨不足で発芽不良が目立つという。

 岩手では、出荷量が全国上位のピーマンが高温によるカルシウム不足で実の一部が黒くなる「尻腐れ」が深刻。実が育たないうちに成熟が進み、赤色になる被害も起きている。JA全農いわての担当者は「出荷できても『色が悪い』などと市場からクレームが来る」と頭を抱える。冷涼地で栽培されるレタスも葉の変色などが見られる。

 全国トップ級の収量を誇る福島産の夏秋キュウリは、終盤の9月に入って収量が減少傾向で、秀品率も低下。JA全農福島の担当者は「単価が保たれていたことは農家にとってありがたかった」と話した。

 秋田では枝豆や長ネギが芳しくない。JA全農あきたの枝豆出荷量(20日時点)は前年比25%減、長ネギは6%減。影響はほかの作物にも広く及び、高橋利和園芸畜産部次長は「あまりに暑く、遮光ネットをハウスにかけるといった今までのやり方では対処できなくなってきた」と戸惑う。

 山形県は9月22日、高温少雨による農作物の影響調査結果を公表。野菜は25市町村から25品目の報告があり、主力のアスパラガスは穂先が曲がる奇形芽が見られた。

 仙台市中央卸売市場での9月中旬の1キロ当たり卸売価格は、主要野菜14品目中12品目が平年を上回った。ニンジンが74%高い252円、ネギが53%高い584円、トマトが48%高い656円、ホウレンソウが33%高い1467円など。

 10月の入荷量は14品目のうち11品目で平年を下回る一方、卸売価格は7品目が平年を上回ると見込まれている。市内の卸売業者は、作付けの適期が外れたため冬野菜の栽培を見送る生産者の存在を挙げ「冬にかけて野菜の価格はさらに値上がりする」と警戒する。

「重病末期のよう…売り物にならない」肩落とす生産者

 今夏の記録的な猛暑で、東北の野菜産地が苦境にあえいでいる。生育不良や収量減が相次ぎ、栽培計画の大幅な見直しを余儀なくされた生産現場も少なくない。

 ピーマン畑で、鈴なりの実が真っ赤に染まっている。みな小ぶりで、収穫期はとうに過ぎている。

 9月29日、ピーマンの一大産地、岩手県奥州市胆沢の佐々木農園。異様な光景を前に、佐々木伸広代表(31)が肩を落とす。「人間ならば重病の末期のような状態。もう需要がなく、売り物にならない」。ピーマンは暑さに強いとされるが、出荷基準の大きさまで実が育たないうちに成熟が進み、緑色から赤色へと一変した。

 同農園は年間20トンの収量が半減し、損失額は400万円以上に膨らむ見通し。資材などの高騰も経営を圧迫する。佐々木代表は「これ以上、生活水準を下げられない。この状況が続くなら、品目の変更も考えざるを得ない」と話す。

 宮城県美里町の農事組合法人タカギ農産も異常気象に翻弄(ほんろう)された。7、8月に発芽期を迎えるニンジンは通常7、8割の発芽率が2割となった畑もあった。トウモロコシは実の発育や肥大が早まり、収穫が追い付かなくなって品質が悪化した。

 組合は昨年7月の記録的な大雨で被災した。日下浩一代表理事(62)は「2年続けて厳しい状態になるとは」と顔をしかめた。

 ビニールハウスで栽培するホウレンソウを通年出荷している色麻町の片倉清行さん(67)と長男明広さん(40)の農園では、害虫が多かったことなどからやむを得ず収穫を前倒しした。

 主力の標準サイズが例年の5割程度にとどまり、小型が2、3割増えた。明広さんは「秋が深まるにつれて気温が下がり、収量が増えてほしい」と願う。

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