ホンダのHV車ばかりが日光「いろは坂」で故障相次ぐ!? 紅葉渋滞の名所でなぜトラブル続出に?

紅葉の名所「日光いろは坂」でなにが起きていたのか

 2022年の紅葉シーズン真っ只中の週末、各地の名所では観光に訪れる人たちがあふれているといいます。
 
 そんななか、紅葉で有名な観光地を行き来する峠道の途中で、ホンダの特定のハイブリッド車ばかりが故障し止まっていたと、SNSで話題となっていました。一体どんな事象が起きていたのでしょうか。

2013年9月にフルモデルチェンジした先代(3代目)のホンダ「フィット ハイブリッド」には新ハイブリッドシステム「SPORT HYBRID(スポーツ ハイブリッド) i-DCD」が採用され話題を呼びました

 秋の紅葉シーズンを迎え、栃木県の名所である日光の峠道「いろは坂」では、週末ともなると大渋滞となっているようです。

【画像】搭載車はどれ? ホンダの「1モーター スポーツハイブリッド」搭載モデルを見る(36枚)

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 新型コロナ自粛から少し解放されたということもあって、週末は登り切るまでに3時間かかることもあるといいいます。

 そんな日光いろは坂で、週末の2022年10月30日に「ホンダのハイブリッド車ばかり複数台がエンコ(故障で動かなくなるの意)していた」というSNSが話題を集めています。

 今回は、同じような場所で同じような車種ばかりになぜトラブルが重なったのか、分析してみたいと思います。

 いろは坂でエンコしたホンダのハイブリッド車は、いずれも先代「フィット」や、現行モデルなら「フリード」などに搭載される「SPORT HYBRID i-DCD(以下i-DCD)」と呼ばれる旧世代の1モーター式システムの搭載モデルでした。

 i-DCDは、このほかにも「ヴェゼル」「シャトル」「ジェイド」など、数年前までホンダのコンパクト系モデルに広く採用されていたものです。

 このホンダのハイブリッドシステムは、渋滞の登り坂に弱点を持つのでしょうか。結論から書くと「大いに厳しい」ということになります。

 このタイプのハイブリッドシステムは、走行用電池の容量に余裕あるときにはモーターだけのパワーで走り出します。モーターはゼロ回転から大きいトルクを出すため、軽々とスタート可能です。

 しかしモーターを稼働させようとすれば、前述の通り電池残量が必要になります。

 i-DCDの走行用電池は、基本的に走行していないと充電出来ません。登り坂で何度も発進を繰り返していると、電池残量が無くなってしまうのです。

 こうなるとモーターのパワーで走り出すことは出来ません。それではどうしているのでしょうか。

 i-DCDの特徴は、ツインクラッチとモーターを組み合わせている点にあります。

 したがってモーターパワーが使えなくなれば、マニュアルミッション車と同じような発進用クラッチ板を使う普通のデュアルクラッチ式AT(DCT)ということになります。

 しかもi-DCDに使われているクラッチは、乾式と呼ばれるシンプルなタイプです。おなじDCTでも、日産「GT-R」などは耐久性の高い湿式(オイルで潤滑される)を使います。

 乾式クラッチはコストや重量の点で有利ながら、耐久性でマニュアルミッション車のクラッチと同じです。登り坂から走り出そうとすれば、回転数を上げ気味にして長い長いクラッチミートをしなければなりません。

「i-DCD」車に代表される「乾式DCT」搭載車ユーザーは今いちど注意を!

 もっといえば、登り坂で止まっている際、ブレーキでなくアクセルをホンの少し踏んでいるような乗り方をすると、マニュアルミッションでずっと半クラッチをしているのと同じ状態になります。

 当然ながらクラッチ板がオーバーヒートしてしまい(乾式だとオイルで冷やせない)、最悪、焼き付いてしまうのです。

 いろは坂でエンコしたホンダのハイブリッド車は全てこの状況に陥ったと考えていいでしょう。

複雑な機構を用いたホンダのコンパクトカー向けハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-DCD」

 登り坂で極端に遅い速度をキープしようとしたら、かなりの確率でトラブルに見舞われます。この点、ホンダも十分認識しており、取り扱い解説書にもしっかり明記してあります。

 実際、普通にスタートしクラッチ繋がったままで登り坂を走っていれば、問題も起きなかったはずなのです。

 一方、30日は日曜日で紅葉のピークとも重なり、いろは坂通過までに3時間もかかったといいます。そのように速度域も低く、発進停止を頻繁に繰り返すような乗り方をすれば、ホンダの説明書通りのことが起きるという訳です。

 参考までに書いておくと、警告灯出てすぐ走行を中断すれば、冷えるのを待って走り出せます。無理して走り続けると焼き付いてしまい、走行不能になります。

 同じようなことは、乾式クラッチを使うタイプのフォルクスワーゲン車(DSG)などでも起きています。

 湿式クラッチを使うツインクラッチ式でも、温度警告灯が点いたら「なるはや」でクルマ止めてしばらく待つこと。乾式クラッチと登り坂のノロノロ渋滞の相性は最悪と考えておくべきなのです。

 本来なら、そんな知識なくても平気なのが乗用車ながら、自分のクルマがどんなシステムを使っているのか知っておく必要があります。

※ ※ ※

 と、ここまで書いて「まてよ!」となりました。

 最近、カーシェアやレンタカーなどの需要が拡大しています。したがって、そういったメカニズムなど全く知らずにハンドルを握ることも増えています。

 もちろんそんな場合には、ホンダの説明書だって読む機会すらありません。

 繰り返しますが、乗用車は常識的に乗って壊れないように造っておかねばなりません。そこでいうとホンダのi-DCDは、少しばかりマニアック過ぎる機構だと考えます。

 ホンダもそこを理解していたからこそ、2020年にフルモデルチェンジした現行型の新型フィットからは、耐久性の高い2モーター式ハイブリッドに変わりました。

 もしi-DCDのクルマに乗るのなら、渋滞で同じようなことが起きる可能性大と考えたほうが良いでしょう。

 自分のクルマなら十分にシステムを理解し、破綻するような乗り方はしないこと。またカーシェアやレンタカー業者は、i-DCD車を貸すときにしっかり説明しておくべきだと思います。

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