10月2日朝、神奈川県茅ヶ崎市内を流れる千ノ川で大量の魚の死体が発見された。茅ヶ崎市下水道河川管理課の桂田孝課長がこう説明する。
「朝7時頃、川沿いを散歩中の男性が茅ヶ崎警察署に通報。それを受けて関係職員が現地調査を行なったところ、千ノ川中流の約2.5km間に大量の魚の死骸が見つかりました。この川に生息するボラ、ハゼ、コブナなど、その数は数千匹に上ります」
そして同日、特に魚の死骸が大量に発見された地点から採水し、水質検査を行なったのだが……。
「ヒ素やシアンなどの有害物質は検出されず、水中の酸素量も異常ありませんでした。また、川沿いの病院や工場から有害物質が流入した形跡もありません。なぜ魚が大量死したのか、まったくわからない状況です」(桂田氏)
そこで週プレも独自に原因を探るべく現場へ急行。独特のニオイと川底のどす黒いヘドロ。千ノ川はいわゆるドブ川である。魚の死骸はすでに市が回収していたが、現地で取材を進めていくと、魚大量死の原因についてふたつの説が浮かび上がった! まず、近隣の主婦がこう話す。
「あの日の朝、散歩していると生臭いニオイがしたの。川に目をやると死んだ魚がビッシリ。たぶん、誰かが毒薬を撒(ま)いたのよ」
別の主婦も不安げに言う。
「凶悪犯罪ってその直前に動物虐待が起きるものでしょ。今回も『誰かが薬を使った犯罪を企(くわだ)てていて、その毒性を確かめるために魚を実験台に使ったんじゃないか』って噂を聞いたのよ」
そんなバカな!? と思いつつも、こうした“犯行説”を不安そうに囁(ささや)く近隣住民は多かった。
一方で、前出の桂田氏によれば、大量の魚の“死亡推定時刻”は「早朝に死骸が発見されたことを考えれば、前日深夜から未明」とのこと。実はその数時間前、川沿いを散歩していた別の住民は川のわずかな“異変”を察知していた。
「大量死発見前日の夕刻でした。コイが水面に顔を出すんですよ。それも、よく見ると3匹、5匹、10匹とほとんど間をあけずに。毎日同じ時間に散歩していますが、あんな光景は初めて見た」
近畿大学農学部水産学科の江口充教授がこう解説する。
「その目撃情報が事実なら大量死の原因は酸欠の可能性が高いでしょう。現場は魚の死体が発見される1週間ほど前に、台風による大雨に見舞われています。この台風によって川底に溜まっているヘドロが攪拌(かくはん)されれば、水中の酸素量が減ってしまうんですね。また、ヘドロは酸素と強烈に結びつく硫化水素を多く含んでいるため、吸い込むと体内の酸素も奪われてしまう。実は、こうした台風に起因する“魚大量死”はこれまでにも至る所で起きているんです」
でも、茅ヶ崎市の水質検査では水中の酸素量は正常だったはず。
「採水した地点が問題です。川の水は常に流れて移動しているため、魚の死体発見後に採水しに行ってももう遅いのです」(江口氏)
江口氏は「現場を見ていないから確証は持てない」としながらも、この酸欠大量死説を最有力とした。ちなみに、東日本大震災の起きた1週間前の3月4日、茨城県の下津海岸で約50頭のイルカが打ち上げられ、30頭が死んだケースがある。もしや今回の一件も、30年以内に起こるとされる東海大地震の前兆だったりしないのか? だが、江口氏は全否定する。
「先ほども言いましたが、魚の大量死はこれまでにも“割とあった”こと。今回の件に限らず、震災以降は大量死が起きると必ず私のもとに取材が入ります。なかには『大地震の前兆で魚が自殺したんですか?』なんて質問をぶつけるテレビ局の記者まで(苦笑)。海底などの地殻変動を察知して本能的に逃避行動を取ることはあっても、逃げた先で集団自殺を図るほど魚は高等な生物ではありません。大地震前兆説は暴論です」
失礼しました!
(取材・文/興山英雄)