7月22日、ついに日本でも「ポケモンGO」がダウンロードできるようになった。開発したのは米ナイアンティック社。いかにしてヒット作は生まれたのか。
22日午前、SNSやネットの掲示板では歓喜の声が上がった一方、速度制限でダウンロードできない人も続出し一部で混乱も広がった。
空前の大ブームとなっているスマホ向けゲーム「ポケモンGO」。米国での一日あたりのアクティブユーザー数はツイッターを抜き、配信された地域では軒並みトップセールスの人気ぶりだ。
第一生命経済研究所、経済調査部・首席エコノミストの永濱利廣氏が言う。
「米国で『ポケモンGO』のリリースがあった7月6日(日本時間7日)の任天堂の株価は1万4935円でしたが、翌日から急騰し、19日には3万円を突破。アベノミクスになぞらえて、『ポケモノミクス』なんて言葉も誕生しています」
世界中の人々を魅了するポケモンGOはどんなゲームなのか。
「地球上すべてが舞台。ポケモントレーナーとして、公園や建物、地下鉄の駅など街中に潜むポケモンを探して捕まえたりバトルしたりするゲームです」(永濱氏)
●リアルとゲームの融合
なぜこれほどまでに世界中の人々を惹きつけるのか?
答えは「AR(拡張現実)」と話すのは、岩井コスモ証券、投資調査部の川崎朝映氏だ。ARとは、現実の世界にテキストや写真、イラスト、動画などのデジタル情報を重ね合わせ、リアルとデジタルを融合させる技術のこと。
「AR 技術を使うことで、スマホのカメラを通して画面を見ると、そこにポケモンが現れる。そのポケモンを、モンスターボールを使って捕まえる。GPS機能を使っ た『位置情報ゲーム』という既存の要素に加え、“ポケモンの世界観”がまさにリアルに体験できるのです。今、スマホゲームで考えることができるあらゆる技 術を総動員した集大成ともいえるゲームです」
ポケモンGOを開発したのは、「イングレス」という位置情報ゲームを開発した米ナイアン ティック社。「イングレス」は、2チームに分かれてリアルな地図上に設定された“ポータル”を取り合うという陣取りゲームで、世界的な人気になった。ダウ ンロード数は2012年の発表から世界で1500万を超えている。ポケモンGOはこの「イングレス」にARとポケモンという要素を加えて進化させたゲーム なのだ。
ナイアンティック社は、もとは米グーグルの社内ベンチャー。ポケモンの権利関係を管理している株式会社ポケモン(任天堂が32%を出資)、任天堂、そしてグーグルから最大3千万ドルの出資を受けている。ポケモンGOは4社の共同プロジェクトだ。
なぜこの4社が手を組んだのか。川崎氏は「思惑が一致したから」との見方を示す。
「据 え置き型ゲームの低迷が続いていた任天堂は、DeNAと提携し、スマホゲームへ軸足をシフトしていました。また、豊富なキャラクターを活用したライセンス ビジネスも戦略として据えていた。一方、ナイアンティック社も、イングレスの世界観を引き継いだ新ゲームを求めていた。そんな両者の思惑が一致したのでは ないでしょうか」
●グーグルの世界戦略?
対して、「すべてはグーグルが描いた世界戦略の一環」と見ているのは、SBI証券、投資調査部・シニアマーケットアナリストの藤本誠之氏だ。
「ナ イアンティック社を率いるジョン・ハンケCEOは、グーグルアースやグーグルマップ、ストリートビューを手掛けてきた人物。ポケモンGOで遊ぶ際のGPS 情報や、撮影した写真情報などを取得することで、世界中のビッグデータを入手できる。マーケティングのための情報や、グーグルが行けない場所でも世界中の ユーザーがデータを送ってくれるというわけです。この大流行も、すべてはグーグルが事前に描いていた戦略のうちだと思います」
7月中にはスマホと連動してポケモンが近くにいることを知らせてくれるデバイス「ポケモンGOプラス」も発売予定だ。
「任 天堂はマリオ、ゼルダ、ドンキーコングなど、人気のコンテンツを抱えています。今秋には『どうぶつの森』などスマホ向けゲームを4タイトル相次いで投入す る予定です。今回のポケモンGOの大ヒットを受け、どうぶつを捕まえる“どうぶつの森GO”なんてものも登場するかもしれません」(永濱氏)
世界的な“ポケモンGO旋風”はやみそうにない。(ライター・景山薫)
※AERA 2016年8月1日号