生産性最適化ツールの正体はーー。
先月、新たに「生産性スコア」機能を公開したマイクロソフト。これにより、従業員がマイクロソフトの一連のツールをどのように使用しているかを追跡できるとか。そう聞いて、もはやオーウェルの悪夢…!と思った人は、あなただけじゃないはず。プライバシーの専門家たちは、職場の監視を本質的にゲーム化しているとして同社を批判しています。
マイクロソフトのいう”インサイト”
10月に初めて機能を発表した際、マイクロソフトは「仕事のやり方を変えるインサイト」を雇用主に提供できるとして紹介されました。フォーブスによれば、このインサイトは73種類の”指標”にわたる各従業員の行動データを収集し、月末には便利な分析データとして上司がチェックできるといいます。
指標には、どれくらいの頻度でカメラをオンにしたか、電子メールを送信したか(@メンションが多いかを含む)、共有ドキュメントやグループチャットに定期的に貢献したかどうか、Microsoftのツール(Word、Excel、Skype、Outlook、Teamsなど)を使用した日数などが含まれるのだそう。
選択肢はある。ただし、管理権限者のみ。
Microsoft365のコーポレートVPであるJared Spataro氏は、こうした機能が「作業監視ツールではない」として、さらにMicrosoftがプライバシーへの取り組みを示すためにセキュリティ対策を組み込んだと発表。たとえば、すべての従業員の生産性スコアが28日間にわたって集計され、そのデータを匿名化または完全に削除するプライバシー管理もできるようになっているとか。
マイクロソフトの広報はGuardianへの取材に対して、データ匿名化や削除の選択肢があることを繰り返していましたが、管理権限があるのは従業員個々人ではなく、管理者である上司ということになります。以下は、広報担当者の説明。
生産性スコアは、IT管理者にテクノロジーとインフラストラクチャの使用状況に関する洞察を与えるオプトインエクスペリエンスです。
インサイトは、起動時間が長い、ドキュメントコラボレーションが非効率的、ネットワーク接続が不十分などの一般的な問題点に対処することで、組織がテクノロジーへの投資を最大限に活用できるようにすることを目的としています。28日間にわたるインサイトはまとめて表示され、IT管理者が技術サポートとガイダンスを提供できるように、ユーザーレベルで配布されます。
「モラル違反では?」
露骨な職場監視が生産性最適化ツールとして再パッケージ化され、ゲームをテーマにしたキュートな「スコア」デザインになっていることについて、当然ながらプライバシーの専門家は警鐘を鳴らしています。Basecampの共同創設者であるDavid Heinemeier Hansson氏は「根本的に、道徳性に欠けている」とツイート。さらに、次のように見解を示しています。
マイクロソフトが開けたばかりのフレッシュな地獄の穴を説明するうえで、ディストピアという言葉が十分強力かはわからない。
職場で絶えず監視されていることは、心理的虐待です。今すぐ誰かが、統計のために忙しく見えることを心配しなければならないことを課すなんて、とんでもない。
データプライバシー研究者のWolfie Christl氏は、この機能について「多くのレベルで問題がある」と指摘。雇用主には従業員の監視をオフにする選択肢を提供するとしている一方で、Microsoft 365を最初に起動したときにデフォルトで有効になっていることに疑問の声をあげています。また、プライバシー管理の取り締まりに厳しい欧州連合諸国地域の一部では違法になる可能性さえあると述べています。
先出のHeinemeier Hansson氏はツイートで次のように表現しています。
この計画がいかに不気味であるか具体化する方法のひとつとして、ストップウォッチとクリップボードを後ろに置いている人を想像することができます。各タスクに費やした時間が綿密に記録され、同じことをしているすべての人の書類をまとめ、その結果を経営陣に報告するというものです。
今年は、パンデミックにより多くの人々が自宅で仕事をするようになり、職場監視は特に一般的な懸念事項となってきているようです。Gartnerが6月に発表したところによると、雇用主の16%が監視ツールをより頻繁に使用し、従業員のコンピューターの使用状況、内部通信、その他のデータの関与を追跡していると示しました。米国の専門家は、これらのツールの開発や採用がさらに増加すると予想しています。
在宅勤務の普及は歓迎したい一方で、雇用主による監視も同時に普及していく可能性があるのかと考えるとちょっと恐ろしいですね。そもそも、監視がどのような経営上の利点をもたらすというのか…? 特に今回のマイクロソフトの機能に関しては、ツールの使用頻度など、73種類の”指標”を意識しないといけないとなったら仕事の本質からどんどんズレていってしまいそうです…。