マクドナルドのポテトM・Lサイズ販売休止に見る、超合理的思考

マクドナルドがフライドポテトの M・Lサイズ販売休止を発表!

 マクドナルドは12月24日から30日までの1週間、「マックフライポテト」のMサイズとLサイズの販売を休止すると発表しました。原因は世界的なサプライチェーンの混乱と関係しています。

 日本マクドナルドはグローバルな調達先から最適なサプライチェーン構築を目指すと公言しています。今回のマックフライポテトの場合、多くは米国のアイダホ州などで生産された良質のジャガイモを収穫し、それを北米の工場で加工し、カナダのバンクーバーから日本へ輸送する物流網を築いていたようです。

 そこにバンクーバーの水害が発生し、同時に世界的なコンテナ不足も起きているので輸入遅延が発生し、代替輸送のめども立たないという状況になったのでしょう。

 私の友人に、マックフライポテトがないと生きていけないほどポテト好きな人がいます。心配でLINEしたところ、「Sサイズをたくさん買うから大丈夫」と返事が返ってきました。しかし、実はこれはただの笑い話ではありません。経営者にとって、大いに学べる知恵がそこに潜んでいる。今回はその話をしたいと思います。

ポテト、焼き鳥、車、白物家電… あらゆるものが入手困難な「ぜいたく品」に?

 みなさんもお気づきの通り、今、日本で不足しているのはポテトだけではありません。

 コロナ禍から回復し始めた飲食店では、焼き鳥が不足する事態が起きました。日本の居酒屋で安価で食べられる焼き鳥の多くはタイの食品工場で鶏肉をさばき、串打ちをしてタレもつけたうえで、冷凍されて日本に届きます。

 そういった工場では、ミャンマーなど隣国からの出稼ぎ労働者が低コストの労働力として重宝がられてきたのですが、コロナ禍で出入国が停止してしまい工場の稼働が戻らない。だから焼き鳥のラインが6割程度しか稼働できない。そんなことが起きています。

 半導体不足はそれ以上に深刻で、車から白物家電まで幅広い商品で品薄・品切れが続いています。先日うちの事務所で使っている温水洗浄便座が壊れてしまったのですが、ネット上では一番シンプルな普及価格の温水洗浄便座が軒並み品切れでいつ入荷するかわからないという表示になっています。車も新車に買い替えようとしたら納車は6カ月先というような話が当たり前の状況です。

 コロナ禍が落ち着いてきたと思ったら、今度は品不足。心配事というものはなかなかに絶えないものだと、あらためて考えさせられます。

 さて、この品不足、実は日本だけではなく世界的な現象です。こういったときに経営者はどうすべきなのか?それを考えるためにアメリカの事例を紹介しましょう。

米国のブラックフライデーで異変 小売店が激安品を用意しなかったワケ

 消費大国アメリカでは日本以上に小売店の品不足が深刻になっています。GDPの7割が個人消費だというお国柄ですから、アメリカ人は日本人以上にリベンジ消費に熱を入れています。しかし、今年の夏以降、アメリカではコロナ禍からの回復期に入ったのにとにかく小売店の店頭で品切れが目立っているのです。

 そんな中、今年のブラックフライデーのある動きが注目を集めました。アメリカでは感謝祭の翌日の金曜日をブラックフライデーといって、一年で一番多く商品が売れる日だとされています。大手の小売店はどこでもブラックフライデーに向けて激安商品を揃えて消費者を迎え入れるのが通例でした。

 ところが、今年はブラックフライデーなのにそういった激安品を用意しない小売店が目立ったのです。例年ならば40~50%オフの商品が並ぶショッピングモールであっても、多くのブランドショップが10%オフの商品しか用意をしない。それで消費者は、「まったく期待外れだよ」と楽しみが感じられないブラックフライデーの様子を嘆いたのです。

 この現象と、今回日本マクドナルドが発表したポテトの販売休止のニュースの共通点、お気づきでしょうか?

 これは、「たとえ一時的に顧客が不満足であっても、機会損失を避けるほうが品切れよりもずっといい」ということなのです。

 アメリカではブラックフライデーの後、クリスマス商戦が続きます。世界的なサプライチェーンが混乱して、中国など海外で生産した商品の輸入が滞る中で、ブラックフライデーで仮にたくさんの商品が売れたとしても、その後、クリスマス商戦の間中、ブランドショップの店頭で陳列棚がガラガラになってしまったら多大な機会損失が発生します。

 ポテトも同じです。もちろんマクドナルドに来店してバーガー類だけを買って帰る顧客もいるわけですが、「バリューセット」がなければ他のお店を選ぶという顧客も少なからずいるはずです。ですから商品の販売量を一時的に絞ることで、サプライチェーンが滞っていてもセット商品の営業を続けられるようにしているわけです。

 でも、冒頭でお話しした私の友人のように、ポテトSを大量に買う顧客が出てきたらどうするのでしょう?

マクドナルドの対応に隠れた 超合理的な「値上げ」戦略とは?

 今回マクドナルドではバリューセットのポテトがSサイズに変更になる分、価格を50円値引く対応をします。一見、これまでと同じルールに沿った対応に見えますが、ポテト好きの顧客は実は割高なポテトを買っていることになります。

 実際にビッグマックセットは従来はポテトMサイズで690円、Lサイズで740円でした。今回のルールでポテトがSサイズでは物足りないという人が追加でもうひとつSサイズのポテトを購入すると、サイズとしてははMとLの中間になりますが、支払い額は790円とこれまでのLサイズセットよりも高くなります。

 実は、ここが私は一番重要な点だと思うのですが、日本人は品不足が起きると売り切れを受け入れるのが常識だと考えますが、アメリカ人のビジネス感覚では品不足が起きて機会損失が起きそうになったら、すぐに値上げをするものなのです。

 値上げといっても昨年、マスクが不足して500円で買えたマスクの価格が転売で5000円になったような値上げは感心できません。でもバーゲンを止めて10%オフで売ることや、大入りサイズを販売中止にして実質少しだけ割高になる状況は、合理的に人間の経済行動を変えることができます。

 ポテトが好きな人は品薄の状況でも追加でポテトを買うことはできます。しかしそのためにはこれまでよりも少しだけ高いお金を支払うことになる。だから多くの顧客がポテトの購入量を減らしてくれることが期待できるというのが、マクドナルドが導入する仕組みなのです。

 同様に、日本では自動車が品薄になると価格はそのままにして納期が遅れます。

 今、コロナ禍で私もアメリカでの実地取材をしきれていない側面があるので、実際現地がそうかどうかは自信がありませんが、今まではアメリカのディーラーの場合、品薄になると小売価格が自然に上がるものです。不人気の車はディスカウントで売られる一方で、人気の日本車はプレミアムといってメーカー希望小売価格よりも高い価格で、店頭で取引される。アメリカ人は、それが当たり前だと考える商習慣を持っています。

 一方で日本ではデフレが長く続いた結果、大手小売りチェーンの価格支配力が高まったという側面が強いのでしょうが、なかなか値上げに踏み切らないという日本独特の経済状況が生まれています。

 サプライチェーンの混乱は2022年も引き続き起きそうです。さまざまな分野で品物がなくなって、消費者が不満を抱える局面も起きるでしょう。その対策の一つとして「安くは売らない」「合理的な範囲内で値上げをして需要を抑える」という売り方があることを、ビジネスの選択肢のひとつとして再認識してはどうでしょうか。

 マクドナルドのポテト販売休止のニュースは、本質を探っていくとこのような結構深い発見がある、というお話でした。

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