マスクだけじゃない……新型コロナ ネットで5倍、10倍売れている「意外なもの」たち

新型コロナウイルスの影響で、私たちの生活スタイルは大きく変わってしまった。時差通勤やリモートワークで仕事のやり方が変わり、イベントの中止や観光施設の休園、小中高の一斉休校により、自宅で待機する人が急激に増えた。

【写真】新型コロナ ネットではこんなものが“意外に”売れていた(全7枚)

 その影響もあって、巣ごもり消費が活況である。3月5日の日経新聞(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56441130V00C20A3L60000/)によると、スーパーでは冷凍食品や総菜が売れて、CDやDVDの売れ行きも好調。自宅学習のための参考書などは通常の4倍の売れ行きだという。


一斉休校を受け、学習ドリルが売れているという。ではネット通販ではどんなものが売れているのだろうか ©時事通信社

「冷凍食品は10倍ほどの売れ行きです」

 それならば、ネット通販の売れ行きも好調なのではないか。ネット上には膨大に商品が売られている。もしかしたら、私たちが想像もしていないような意外な商品が、新型コロナウイルスの影響で売れているかもしれない。

 早速、ネット通販の売れ筋商品を調べるために、東京都新宿区にある「Nint」(https://ec.nint.jp/)という会社に向かった。Nintはビッグデータ技術を用いて楽天、アマゾン、ヤフーショッピングの売上や商品の推計値データを抽出する調査ツール。本来であればネットショップが競合会社の動向を調査するために利用しているものだが、これを使えばすぐにネットで売れている商品を見つけられるはずだ。

「学校が休校になった3月2日以降だと、マスクやティッシュ、空気清浄機などが好調に売れています。自宅に子供がいることもあって、冷凍食品などは平常時と比較して10倍ほどの売れ行きですね」

 取材に応じてくれたのは取締役の西尾宗哲さん。実店舗と同じようなものがネット通販でも売れているようである。意外なものは売れていないのか。

5.5倍売れている“ある食品”とは?

「しいていうなら、にんにくが好調に売れています。特に黒にんにくは昨年同月比で5.5倍ほど売れています。はちみつも2割ほど売上が増加しています。新型コロナウイルスの感染を防ぐために、免疫力を高めたい人が買っているのではないでしょうか」
(※正確な医療情報や感染防止方法については専門家の意見を参考にしてください)

 なるほど。そうなると免疫力を高めるためには睡眠も大事だから、寝具なども好調に売れているのではないだろうか。

「調べてみましたが寝具が極端に売れている様子はありませんでした。他にも運動不足の解消目的でダイエット器具が売れていると思って調べたんですが、こちらも特別に売れている気配はありませんでした」

2月と比べて8倍売れている「アイデア商品」

 西尾さん曰く、3月は新生活シーズンということもあって、例年、ネット通販の売れ行きが好調だという。特に今年は楽天のスーパーセールの時期と重なったこともあって、新型コロナウイルスの影響で売れているのかどうか判断が難しいという。

 その中でも、西尾さんが「これは絶対に影響を受けて売れていますよ」と自信を持って勧めてくれたのが、『グリッポン』(https://item.rakuten.co.jp/soko-techno/10000006/)という商品だった。

 素手で吊り革を触らないようにするためのアイデア商品。Nintで調べたところ、2月と比較して8倍の売れ行きだという。これさえあれば、吊り革を触るときに躊躇しなくてよさそうである。

 次に調査に向かったのは東京都中央区にある「アグザルファ」。Amazon専門のコンサルティングとしてパイオニア的な存在で、ツール利用も含めれば1000社以上のクライアントに対してAmazonの売上支援サービスを行っている。Amazonで売れ筋の商品を常にチェックしており、新型コロナウイルスの影響で売れているものについて、代表取締役の比良益章社長に話を聞いてみた。

缶詰、スポンジ、ティッシュ……

「備蓄食の買いだめで缶詰が好調に売れていて、抗菌タイプの台所用のスポンジなども人気ですね。トイレットペーパー不足の影響なのかポケットティッシュの売れ行きも好調です。ただ、どれも実店舗でも売れているような商品ばかりで、ネット通販だから売れているという特別な商品は見当たりませんでした」

 しかし、比良社長は「意外といえば意外ですが――」と前置きした上で、「茶カテキン粉末」が好調に売れていることを教えてくれた。

「新型コロナウイルスの予防にカテキンが効くとSNSで流れたらしく、それを芸能人がブログで紹介したところ、爆発的に売れたようです。医学的な根拠までは分かりませんが、こういう一時的な風評で売れる商品は、Amazonではちょくちょく出てきますね」

 新型コロナウイルスの影響で、茶カテキンが売れるとは誰も想像していなかった。こういう突発的に注目される商品は、何でも揃うAmazonで買う人が多いのかもしれない(※正確な医療情報や感染防止方法については専門家の意見を参考にしてください)。

プチギフトが2倍の売れ行き……その理由は?

 他にも知人に聞いて回ったところ、売上規模は小さいものの、2つほどユニークな“意外に売れているもの”を見つけることができた。

 東京都東久留米市で花とギフト品を楽天で販売している「フローラルライフ」。ここで取り扱っている「プチバルーンバンチ」(https://item.rakuten.co.jp/ohanaya/z05/)という商品が、3月に入ってから好調に売れているという。

 小さな熊やウサギのぬいぐるみに、ハートの風船がついた長さ15㎝ぐらいのプチギフト品。販売価格は1個約600円。まとめ買いするお客さんが多く、例年の2倍以上の売れ行きだという。

「売れている理由が私にも分からないんです。ただ、これは推測ですが……今年は卒業式や終業式などの式典が突然中止になったので、小さな花束を贈るよりも、何か形に残るものを友達に贈りたいという意識が強まったのかもしれません」

 話を伺ったのは、店長の立川まりさん。フローラルライフは3月になると卒業式シーズンということもあって、例年ならば花束の注文が殺到する。しかし、今年は式が中止になって注文が激減。その売上を補っているのが、このプチバルーンバンチだった。

「学校が突然休校になり、友達にお別れもしっかり言えなかったこともあって、後からネットでプチギフト品を探している人が多いのかもしれません。うちのネットショップは通常は花と雑貨のギフト品がだいたい5:5で売れるのですが、2月後半からは8割の注文を雑貨のギフト品が占めています」

 心の準備ができてない中でのお別れということもあって、その穴埋めとしてネット通販が利用されているのかもしれない。

「花粉症なんです」スタンプとは?

 次に紹介するのはマスク用のスタンプである。製造、販売しているのは千葉県在住のアフィリエイター・和田亜希子さん。

「花粉症なので春になるといつもマスクをしているんです。そしたら周りの人から『風邪ですか?』と声をかけられることが多くて。マスクに花粉症のハンコを押せば、心配されることがなくなると思って、それでマスク用のハンコを作ろうと思ったんです」

 マスクに「花粉症」というハンコを押す構想は、昨年の秋ごろからあったという。そこに新型コロナウイルスの騒動が起きて、急きょ、都内のクリエイターの工房で講習を受けて、レーザーカッターを使ってハンコを自作することにした。

 ハンコは「花粉症」「花粉症です」「花粉症なんです」の他に「喘息なんです」というパターンも。長方形や丸型もあって、大は700円、小は300円。急いで作ったネットショップ『花粉症さんの味方』(https://beergarden.shop-pro.jp/)で販売している。

「ハンコを押したマスク姿の写真をTwitterにアップしたところ、1日で8500件リツイートされて、いいねボタンは1.4万回も押されました。試作分も含めれば、これまで100個ほど売れています。まだまだ注文が入りそうなんですが、製造も販売も1人でやっているので、今後、どうやって製造していこうか思案中です」

 私も花粉症なので、試しに自分のマスクに「花粉症なんです」というハンコを押して使ってみた。新型コロナウイルスが発生してからというもの、鼻がむずむずしても、感染者だと疑われたくないので、むやみに顔を覆うことができなかった。しかし、マスクに「花粉症なんです」とハンコを押していると、心なしか周囲の視線も和らいでいるようにも感じられる。

「たくさん売れるとも思っていないし、独創的なアイデアでもないので、真似されたら真似されたでそれまでかなと思っています。今は暗いニュースが多いですから、このハンコで少しでも周囲が明るくなれば、それでもう十分だと思っています」

 新型コロナウイルスの影響で、ネットで「意外に売れているもの」を調べたところ、爆発的に売れているような商品を見つけることはできなかった。景気の先行きが不透明なこともあって、財布の紐を締めていることが、実店舗と同じような商品しかネットで売れていないという状況になっているのかもしれない。

 ただ、最後に紹介した雑貨のギフト品やマスクに押すハンコは、人と人との関係性を少しでも「繋ぎたい」という思いから売れている商品に思える。イベントの自粛や自宅待機が続く中、人恋しくなっている消費者が、ネットの買い物を通じてかすかなコミュニケーションをとろうとしているのかもしれない。

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