新型コロナウイルスの世界的流行の中、注目したいのは台湾だ。3月17日時点で世界全体の感染者数は18万人を超え、死者は7000人以上に達したが、台湾は感染者77人、死者1人に抑えられている。その台湾で気になるのが、マスクの供給だ。長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科の永田宏教授に聞いた。
「2月12日から14日まで台湾を訪れましたが、ドラッグストアやスーパーにはマスクはありませんでした。しかし、ほとんどの人は真新しいマスクを着用していました。聞けば、人数と職業に応じて必要な数だけ販売されるため混乱はないとのこと。タクシー運転手らは不特定の乗車客と接触する機会が多いため、多めに販売されるそうです」
台湾は、中国・武漢で新型コロナの集団感染が発生した直後から、マスクの備蓄、国内在庫の把握、価格統制、増産、輸出禁止、国民への配給といった措置を徹底。2月上旬から、マスクの販売を政府が完全に統制している。スマホアプリで本人確認を厳密に行い、原則1人週2枚ずつをドラッグストアなどで販売している。日本政府が今月15日にようやくマスクの転売禁止に踏み切ったのとは対照的だ。
「日本のマスク供給量は一般社団法人日本衛生材料工業連合会のホームページに載っています。2018年度は①医療用、家庭用、産業用を合わせたマスクの生産数量(国内・輸入合計)は約55億4000万枚②マスクの国内在庫量は約8億7000万枚。どちらもここ数年、ほぼ横這いですから、これを基に計算すると、非常時にマスクを供給するのがいかに大変かがわかります」
例えば、月の生産量は計算上4億6000万枚。1億2600万人の全国民に分けると、1人当たり1カ月に3・65枚、せいぜい1週間に1枚程度だ。
「しかもその8割が主に中国からの輸入で、国産は2割に過ぎません。新型コロナで最も苦しんだ中国が、1月以降も日本向けのマスク輸出量を維持したのかはわかりません。常識的に考えれば、激減したであろうことは容易に想像できます。現在、中国からの物流も制限されており、欧米での感染拡大とマスク需要の高まりを考えると、中国が日本向けのマスク輸出量をどこまで回復させるか不明です。頼みの綱は月産1億枚に満たない国産のみ。国民1人に月間1枚すら行き渡らない供給量です」
国内在庫は、計算上国民1人当たり8枚弱に過ぎない。これまでマスクを手に入れられたのは、中国の春節休暇を控えて、年末年始に在庫を多く抱えていたからだと考えられる。
「政府は、マスクメーカーに増産を要請するなどして月産6億枚の供給量を確保したとしていますが、それでも国民1人当たりにすると毎月約5枚です。つまり、コロナ災禍が終息するまでマスク不足解消は期待できない可能性が高い。当面、マスクは足りないことを前提に生活するしかなく、マスク制限を課されることも覚悟しなければなりません」
マスクは医療関係者ら必要な人に譲り、症状のない健康と思われる人は手持ちのマスクを洗って使い続けるか、自作するしかなさそうだ。