通期の連結営業損益が41年ぶりの赤字に沈んだ日本マクドナルドホールディングス(HD)。傷口を広げたのは中国産の期限切れ鶏肉問題だが、客離れは世 界中のマックで進む。全世界に同一商品を投入する創業以来のビジネスモデルでは柔軟性に欠け、各国で着々と築かれる「マック包囲網」に、スピーディーに対 抗できなくなっているからだ。苦境を脱するには、事業構造の抜本的な改革が求められるが、ハードルは高い。
「信頼回復を進めると同時に、創業の原点に戻って、客とつながる『モダンバーガーレストラン』を目指す。メニュー、価格、店舗体験の3つを重視していきたい」。5日の決算会見で、サラ・カサノバ社長はこう述べ、国内の挽回に向けた決意を述べた。
ただ、業績悪化は日本だけでない。米マクドナルドによると、2014年の「世界の既存店売上高」は前年比1.0%減と、02年以来、12年ぶりのマイナ ス。地域別の14年10~12月期の営業利益は、アジア太平洋(中東・アフリカ含む)が44%減、米国が15%減、欧州が14%減だった。
この背景について、日本経済大経営学部の西村尚純教授は「コストを抑えるため世界で大量に食材を仕入れ、同じメニューを安く投入するモデルでは、競合が次々と打ち出す戦略や、消費傾向の変化に対応できなくなっている」と指摘する。
米国では、新興の高級バーガーチェーンがトランス脂肪酸を使わないフライドポテトなどで「健康志向」を効果的にアピールし、若い客を奪う。既存のバーガーチェーンや、スーパーなどの他業態も、食品メニューを強化している。
日本でも、バーガーチェーンや牛丼店など、強力な外食は多種多様。他業態のコンビニエンスストアがコーヒーや軽食に注力し、全国に5万店という巨大な店舗網で脅威となっている。
こうした状況を打開するには「各地域の市場環境や消費の志向に応じた商品開発を強化する必要がある」(法政大大学院の小川孔輔教授)との声が上がる。
すでに米マックは、来店客が好きな具材を選べるオーダーメードのハンバーガーを、15年末までに全米2000店で提供する方針を表明。
日本もカサノバ社長が同日の会見で、「客が食材の組み合わせを楽しめる新メニュー」「日本独自の季節感や地域性などをいかした、日本人の嗜好(しこう)に合う新メニュー」などの開発を打ち出した。
ただ、日本経済大の西村氏は「小手先の改革に終われば何も変わらず、マックは危機的な状況に立たされる」と警告する。とくに日本の場合、1月の既存店売上高が4割減まで落ち込み、「消費者からはっきりノーを突きつけられている」(西村氏)。
より機動的に地域ごとの商品力を強化するには、「組織体制を大きく変え、国ごとの権限を強化するなどの『解体的出直し』が必要」(同)。だが、今の体制 では、改革も世界規模で意思統一しながら取り組む必要があり、時間がかかる。市場環境の変化についていきながら再生の道を確実に歩めるのか、課題は大き い。(山口暢彦)