マックポテトM・Lサイズ販売一時休止の衝撃 スシローの山盛りポテトまで…「ポテト難民」の行き着く先は

日本マクドナルド(以下、マック)は1月9日から、全国の店舗で「マックフライポテト」のMサイズ、Lサイズの販売を一時休止し、Sサイズのみに限定して販売している。ファーストフード店や飲食チェーン、菓子メーカーなどを取材すると、幅広い業界でじゃがいもを原料とする製品販売に影響が出ていることがわかった。一方、これを機に「ポテト増量」で対抗する競合チェーンによる「ポテト難民」獲得の動きも。なぜポテトが足りないのか?「ポテトロス」の現場を歩いた。

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 マックは昨年12月24日から30日まで実施していたSサイズのみの販売を一度解除したが、1月9日から再びSサイズのみの販売に絞り込んだ。マック好きの40代男性会社員は、熱っぽくこう語る。

「わが家はみんなマックのヘビーユーザーなので、年末にM、Lサイズの販売再開を喜んでいました。ところが、年明け、またSサイズのみになると知りガックリ。休止する前に食べようと買いに走りました」

 家族5人分の昼食としていつも「ハンバーガーとポテトMサイズのセット」を買っているというこの男性。Sサイズだと「もの足りなさを感じてしまう」のだという。

 都内のマクドナルドの店舗に行くと、レジの前に置いてあるメニューにはマックフライポテトM、Lサイズの上に「一時販売を休止しています」と書かれた黒っぽいシールが貼られていた。

 マックと競合するあるファーストフード店では、20代前半の女性店員が語る。

「『マックにはSポテしかないから』と言って、けっこうお客さんがうちの店に流れて来ています。ポテトだけを注文するお客さんも。うちはマックとは仕入れルートが違うので、供給が足りているんです」

 マックは、一番小さいサイズのS(150円)の販売を継続している。記者が都内の店でMサイズ(280円)の分量が欲しいと注文すると、

「Sサイズ2つ分が、Mサイズとほぼ同じ量になります。販売制限はしておりませんので、S はいくつでも買えます。Sを3つ買うとLサイズよりもだいぶ多くなりますよ」

 と、女性店員がニッコリ。

 どうしようかと迷ったが、Sサイズ2個を買って帰った。本来のMサイズを買うよりも20円高くついただけなのだが、損をした気分になるのは不思議だ。

■日本マクドナルドに聞いてみると…

 ポテトが食べたければ、Sサイズをたくさん購入すればいいことになる。なぜ、販売制限を設けていないのか。その点を日本マクドナルドにたずねると、

「お持ち帰りやデリバリーなどで、ご家族分やご友人分も購入される方もいらっしゃると思いますので、購入制限というものは設けておりません」(日本マクドナルド広報部)

 という。販売休止の理由については、こう説明する。

「米国、カナダで生産、加工されたポテトを使用しておりますが、その加工されたポテトを乗せた船便が水害や悪天候が続いているバンクーバー経由であることから、継続的な船便の遅れが発生している状況です」(同前)

 カナダ・バンクーバーでは昨年11月、記録的な豪雨に見舞われ、港も被害を受け、船舶が海上で待機状態となった。同社によれば「この度の輸入遅延はじゃがいも不足によるものではございません」という。

「マクドナルドのフライドポテトは選び抜いた『ラセットバーバンク』などの大きな品種のジャガイモを丸ごとカットして作っています」(同前)

 農業ジャーナリストで近畿大学非常勤講師の松平尚也氏はこういう。

「フライポテトというのはマックを象徴するブランドです。グローバルに調達しているためになかなか変更もできないんですね。海外でのグローバル調達の弱点が出たと思います」

 今回の輸入遅延についてはこう指摘する。

「アメリカ、カナダの景気がすごくいいので、アジアへ運ぶコンテナの価格が暴騰し、北米とアジアの航路はかなり値上がりしています。じゃがいもだけにはとどまらない影響が今後も出る可能性があります。昨年末、マックが販売再開した頃、飛行機を使って空輸するという話も出ていましたが、空輸便では、なかなか元が取れないのではないでしょうか」(松平氏)

 ネット上では、品薄状態を作り出すマックの戦略なのではないかという声すらあるが、日本フライドポテト協会の佐藤雄太理事は実情をこう話す。

「北米産のポテトを輸入しているところはどこも在庫状況が厳しい。農場には食物があっても、アメリカではコロナの新規感染者が1日に数十万人も出ており、農産物を運ぶための物流の労働者を確保できないという状況も生まれています。仕入れ先を北米産からヨーロッパ産に切り換えたいという話や中国産や国内産に換えたいという要望も出ています」

 それでもなぜ、マックは北米産にこだわるのか。

「マックのフライポテトは1本1本が長いですよね。北米で作られている品種だから、あの長いフライポテトが作れる。そんなじゃがいもは日本では育成が難しいようです」(佐藤理事)

 前出の松平氏はこうみる。

「じゃがいもの病気が持ち込まれるリスクがあるので、生のじゃがいもは日本に輸入できないんです。じゃがいもは病気に弱いという側面があります。マックが使っている『ラセットバーバング』という品種は日本では生産がほぼないという状況ですね」

■スシロー、びっくりドンキー…影響広がる

 ポテトを巡っては、マックばかりが販売休止に追い込まれたわけではない。

 回転寿司チェーン「スシロー」(1月28日現在、629店舗)では、人気のサイドメニューである「山盛りポテトフライ」の販売を休止した。運営会社のFOOD & LIFE COMPANIESによると、「スシロー」のポテトもアメリカ産だ。

「弊社のじゃがいもはアメリカ産を使用しておりますので、輸入遅延による影響です。『山盛りポテトフライ』は1月24日から順次、販売休止しています。100円のフライドポテトは現在販売中ですが、状況を見極めながら今後の販売を判断していきたい」(広報担当者)

 ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」(全国338店舗)でも、フライドポテト5商品の販売を1月31日まで一時休止中。運営会社のアレフ(本社・札幌市)は、「当社がヨーロッパから輸入しているポテトについて、新型コロナウィルスの影響による国際物流の混乱と港湾の混雑悪化に伴い、船の入港が大幅に遅延しております」という。

「フライドポテトをご注文しようと考えていたお客さまにとって、他の商品がかわりになればいいのですが、みなさんがそういうわけではありませんので、売上には響くと思います」(アレフ)

■『ポテト、あります!』キャンペーン

 海外産のじゃがいもの調達が厳しくなり、国内産のじゃがいもが脚光を浴びている。北海道産のじゃがいもを使用するフレッシュネスバーガーでは『ポテト、あります!』キャンペーンを展開中。フライドポテトを通常より25%増量し、2月27日まで提供する。フレッシュネス広報担当者はこう語る。

「ツイッターなどでは最近、『ポテトロス』『ポテト難民』『ポテトショック』などのワードで、フライドポテトを食べられない悲しみの投稿を、見かけることが多くなりました。フレッシュネスの場合、契約農場で収穫を行っているので、現状は問題なく原材料を確保しておりますので、お客様の『ポテト欲』を満たしていただけたらなという思いです」(同社)

「ポテト欲」とは何か。

「みなさん、ポテトを食べたいというタイミングがあると思うんです。お子さまもポテトが好きな人が多い。食べたいなと思った時にないと残念な気持ちになると思いますので、そういったタイミングでフレッシュネスをご利用いただきたいですね」(同)

 ただし、同社でも輸入している「オニオンフライ」のラージサイズの単品販売については一時休止中。その理由はマックと同じく、カナダ・バンクーバー港近郊での大規模な水害とコロナ禍が与える世界的な物流網への影響を上げている。

 ロッテリアでも、Sサイズのフレンチフライポテト4個分が入った「バケツポテト」など3品を、クーポンの提示で通常価格550円のところを500円で販売するキャンペーンを2月6日まで実施中だ。

■ポテトチップス業界も打撃

 一方、ポテトチップス業界も打撃を受けている。カルビーは1月24日から順次、うすしお味の「ポテトチップス」など17品目を値上げしている。

「弊社はオープンプライスですので、店頭では7%から10%程度、それぞれの小売業さんの方で上がるのではないかと見ています」(カルビー広報部)

 また「じゃがりこ」サラダ60グラムを3グラム減らすなど、18品目を減量する。3グラムと言われてもピンと来ないので、何本減るのですかと聞くと──

「本数は公表しておりません。グラム数だけです」(同)

  湖池屋でも、1月31日からポテトチップスの「のり塩」や「リッチコンソメ」、「カラムーチョチップス ホットチリ味」など27品目を値上げする。

「昨年から、ポテトチップスを作る時の食用油の値段が大幅に上がってきており、その影響がかなり大きいですね。前年の倍くらいとか、過去にないくらいの上がり方なんです。先々も下がっていく見通しがない」(湖池屋広報担当者)

  湖池屋ではポテトチップスを日本産100%で生産しているという。農林水産省の統計では、じゃがいもの価格は平年比で1~2割高い状況となっている。

「市場はじゃがいも不足だとハッキリ言えます。昨年の夏はじゃがいもの産地である北海道で猛暑や雨が少なかったことが影響しています。じゃがいもの収穫量が落ちて相場が上昇した。弊社では使っている馬鈴薯の7~8割は北海道産なんですが、前もって計画的に決めていたので価格上昇の影響はほとんど受けていません」(同)

 冒頭のマクドナルドでは今後のフライポテトM、Lサイズ販売の見通しをこう語った。

「現時点では、2月上旬ごろにフライポテトの通常販売を再開できる見込みですが、具体的な販売再開の日にちが決まりましたら、改めてお知らせ申し上げます。1日でも早く通常販売を再開できるよう、引き続き輸入業者やサプライヤーと協力のうえ、原材料の安定調達に向けて最大限の対応をおこなってまいります」

 それにしても、日本はポテト好きの国民性だ。

「日本国内では冷凍食品の消費量でポテトが1番に多いとか、アメリカから輸出しているポテトの輸出先は日本がこれまたトップだったりとか、日本人はポテトが好きだということが裏打ちされていますね」(前出の日本フライドポテト協会・佐藤理事)

 いまや“国民食”となったポテトの販売動向は見逃せない。(AERA dot.編集部・上田耕司) 

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