臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、煌びやかな衣装で賑やかに俳優の松平健(69才)歌い踊ることで知られる『マツケンサンバ』がいま、改めてブームとなっていることについて。
* * *
秋の運動会シーズンが到来、近所の小学校でも先日、運動会が開かれていた。グラウンドから流れてきたのは、俳優・松平健さんの『マツケンサンバ』。大きな歓声があがる。グラウンドをのぞくと、曲に合わせて低学年の玉入れが始まっていた。
ネット上でも昨今話題のこの玉入れは、悪魔的組み合わせと称されるほどユニークだ。キンキラの衣装を着た先生が輪の真ん中でカゴを背負い、曲に合わせて『マツケンサンバ』を踊る。子供たちはその動くカゴを狙って玉入れをするのだが、歌がサビに入ると玉入れを中断し、子供たちも一斉にサンバを踊るというものだ。噂には聞いていたが、実際にその現場を見ると、子供も大人も楽しげで、普通の玉入れより何倍も盛り上がっていた。
『マツケンサンバ』の最初のブームは今から20年ほど前。次にブームがきたのはコロナ渦だった2020年。ネットを中心に松平健さんのYouTubeチャンネル「マツケンTube」から配信された動画が注目を集めはじめると、JRAのCMとコラボ。世の中に漂っていた閉塞感を吹き飛ばすように、陽気なサンバのリズムがあちこちで流れた。見た目の華やかさに軽快で楽しいリズム、それに老若男女誰でも踊れる振り付けが合わさっていたのだから、ブーム再来も当然だった。
だがここまでくるとは想定外。10月3日に発売された少女漫画雑誌『ちゃお』の11月号に、キンキラ衣装の松平さんが登場、ネット上で爆発的な話題を呼んでいるというのだ。『ちゃお』の読者は、もちろん少女たちで、彼女たち向けに構成された誌面と付属する豪華な付録が人気だという。
そんな雑誌に登場したマツケンは、表紙をめくるといきなり「ゆめかわ Viva&Loveマツケンサンバ 恋叶おまじないシール」として現れる。ネット上で見たシールは、『ちゃお』のイメージカラーのピンク色を背景と、キンキラ衣装の金色の取り合わせが目にも鮮やかで、可愛らしい。サンバで見せる5通りのポーズを決めたマツケン殿様は、「ビバ!!恋叶」や「恋愛成就サンバ!!」「きっとその想いは届くよ セニョリータ」と、読者である少女たちにメッセージを送る。
小学生までも虜にしてしまう『マツケンサンバ』だが、少女たちからからすれば69歳の松平さんはオーラまばゆい芸能人とはいえ、いい歳をしたオジサンだ。人気の高さは曲や踊りだけではないはずで、他にも理由があるのでは、と考えてみる。1つは「視認性」の高さ、パッと見た瞬間の認識のしやすさ、見やすさやわかりやすさだ。というのも、子供は視認性が高いコントラストがはっきりした色や、キラキラした物を好む傾向がある。キラキラピカピカ輝きながら踊るマツケンはまさに子供好み、釘付けにさせてしまう効果は抜群だ。
もう1つはあのスタイル。ある程度の年齢ならば、松平さん主演で人気だったドラマ『暴れん坊将軍』のイメージなのだが、子供たちはそれを知らない。彼らにすれば殿様姿はサンバのキャラクター、現実離れしたゆるキャラみたいなものではないだろうか。だから年齢は関係ない。ここ数年、殿様が人気を集めるような時代劇も放映されないから、子供たちの中に殿様に対するステレオタイプも存在しない。そう考えると、もしマツケンがキンピカのタキシードでサンバを踊っていたら、子供たちにここまで受けたかはわからない。 書いていて、20年以上前に「魔除けになる」と女子高生を中心に話題になった歌手、天童よしみさんのキャラクター人形、”よしみちゃんキーホルダー”を思い出した。これを機にマツケン殿様も恋が叶うお守りになったりして。