10月29日に放送されたTBS『マツコの知らない世界』では「北関東スーパーの世界」が特集され、独自発展を遂げるさまざまな魅力的なスーパーが紹介されました。そんな「北関東スーパーの世界」を案内した、食文化研究家のスギアカツキさんが昨今、続々と登場しているスーパーの‟新業態”について解説します。いまスーパー業界に起きている変化とはどのようなものなのでしょうか。
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スーパーの‟新業態”が続々登場
日本のスーパーマーケットに新たな動きが出始めています。昨今の原料費高騰により値上げをせざるを得ない状況下において、食品スーパー業界はますます厳しい価格競争でしのぎを削ることに。そして2024年の今年は、結果として勝ち(拡大・成長)、負け(大量閉店)が顕在化しつつある年と言えるでしょう。
スーパーマーケット研究家として国内外のスーパーマーケットのリアルなリサーチを続けている中で、最も大きな変化としてお伝えしたいのが、スーパーの“新業態”が続々登場しているという点です。日本はすでに高齢化社会がはじまり、2030年の高齢化率は31.8%になる見通し。つまり国民の約3人に1人が65歳以上の高齢者ということになります。
そして高齢者達の食生活を見ていくと、若い頃に比べて大きな変化を遂げていることに気がつくでしょう。子どもが巣立ったことで料理の必要性が減り、準備すべき食事量にもコンパクトに。また買い物に費やす時間やお金が増えたものの、体力や食欲が落ちてきているかもしれません。つまり大きなカートを押して広い大型店舗を歩き回り、大量激安商品を詰め込むような買い方を望んでいないということ。このニーズをスーパー側が細かくとらえ、高齢者を喜ばせるような店作りこそが、“スーパーの新業態”なのです。
そこで今回は、これからの時代にふさわしいスーパー活用術のヒントにしていただきたいという想いを込めて、スーパー各社が打ち出し始めた渾身の新業態の事例をご紹介していきたいと思います。
大型店舗は利益を生むエンジンではなくなった
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はじめに、小売業界トップ2社の利益構造を見ていきましょう。1位のセブン&アイ・ホールディングス(売上高 約11.47兆円)はコンビニエンスストア(セブンイレブン)、大手総合スーパー(イトーヨーカ堂、サンエー)、百貨店・専門店、金融関連事業を展開する大手総合流通持株会社。全体の売上の8割超がセブンイレブンであり、祖業のイトーヨーカドーの売上は10%を超える程度で、利益貢献はほとんどなし。アパレルを撤退させ、首都圏中心の食品特化型として変革が始まっています。
2位のイオン(売上高約9.55兆円)はイオンを純粋持株会社としながら、日本国内外のイオンモール、総合スーパー(イオン、マルエツ、ダイエー、カスミ、いなげやなど)、ドラッグストア、総合金融、ディベロッパー、サービス・専門店などの複合事業を運営。収益の軸となるのはディベロッパーや金融事業であり、イオンは複合商業施設の核店舗になっているものの、単体としての収益性は低く、数字的には足をひっぱる存在に。これらの状況から、昭和から平成にかけて一世を風靡した郊外型大規模総合スーパーが台頭する時代は終わりつつあることは容易に想像できるでしょう。
「ライフ」急成長の理由
ライフが2016年から新規事業として開始したビオラル
2023年度における上場食品スーパーの決算状況を見ていくと、営業収益で業界1位に輝いたのは、ライフコーポレーション。首都圏・近畿圏にライフを中心に311店舗を展開する中型スーパーマーケットですが、この実績を聞くと、「ライフってたいして安くないよね?」と疑問を抱く人がいるでしょう。しかしながらライフは毎年右肩上がりで売上を伸ばし、1日の来店客数は100万人を超える好調ぶり。この成功の理由は、同質競争からの脱却を掲げ、独自性や新しい価値を提案する戦略を実行し、価格競争に巻き込まれないポジションを確立しつつあるからと言えます。そしてその成長の大きな柱となるのが、2016年からスタートさせた「BIO-RAL(ビオラル)」なのです。
ビオラルとは、ドイツ語の「BIOLOGISCH(有機の)」と英語の「NATURAL(自然)」を組み合わせた造語であり、素敵なナチュラルライフスタイルを通じて、心も体も健康で美しく、豊かな毎日を過ごしてもらいたい、という願いをもとに、オーガニック、ローカル、ヘルシー、サステナビリティをコンセプトにしたプライベートブランドであり、専門店舗を9店舗(2024年10月時点)にまで拡大しています。成功の要因は、これまで価格が高いイメージのあったオーガニック、ナチュラル商品をPBとして自社開発することによって価格面での敷居を下げたこと。直近4年間におけるビオラルPBの売上は約4倍(1684百万円→7035百万円)に成長、2030年までに売上高400億円を目指していると言います。
このようなライフの成功事例がきっかけとなり、新しい戦略を打ち出すスーパーが続々登場するように。それがまさに、“スーパー新業態”。ここからは、今注目したい新業態の事例を見ていくことにしましょう。
無料コーヒーや医療相談まで「ブランデ」
茨城県つくば市を拠点とするスーパー「カスミ」は、2022年から新業態店舗「BLΛNDE(ブランデ)」をオープン。顧客の滞在性を重視した新しい買い物体験や商品を提供することをコンセプトに掲げ、カフェテリアやワインバーを設置するなど、食体験にこだわった店舗運営を実践しています。特筆すべきは、独自の会員制プログラムとして「BLΛNDE Prime」を導入している点。コーヒー・紅茶の無料提供やアプリでの医療相談ができるなど、スーパーの枠を超えたサービスが話題になっています。
店内炊きのシャリを使用した寿司/Instagram(@our_blande_official)より
鮮度と安さを重視する「生鮮市場TOP!」と「マミープラス」
さいたま市北区に本社を構える「マミーマート」は、2つの新業態で注目を集めています。ひとつめは2019年からスタートさせた「生鮮市場TOP!」。生鮮品の専門店として料理好きが週に1度は通いたくなるスーパーを目指し、常に新鮮な商品を提供しています。その実力は、店舗に足を運んでみれば納得するほど。集客の強い原動力になる精肉だけではなく、野菜も魚も鮮度が良く、目を見張るような安さに驚かされます。
公式HP(https://seisenichiba-top.mami-mart.com/)より
さらに弁当・総菜・自家製スイーツはスーパー関連のコンテストにおいて受賞常連になるほど。魚介類をふんだんに使った健康弁当やパティスリー顔負けの焼き菓子にワクワクしてしまう人は少なくないはずです。そしてもう一つが、生鮮市場TOP!をディスカウント型にした新業態「マミープラス」(2022年~)。品質を落とすことなく陳列方法の工夫や作業人件費を削減することで、低価格を実現。具だくさんのこだわり弁当が298円~398円の価格帯でずらりと陳列されている光景は圧巻です。
これらの新業態を可能にしているのは、マミーならではの流通システムにあり。一般的なスーパーが外部委託をするのに対し、マミーは生鮮食品の製造・加工を強みとするグループ会社の設備投資に注力。製造過程の効率化やコスト低減を実現しながら、鮮度、価格、独自性に圧倒的な強みを持つ総菜を生み出すことに成功しています。
良いものを丁寧に売る
これからのスーパーマーケットの戦いは、「良いものを丁寧に売る」という精神をおろそかにすることなく、高齢者の心をつかみ、激安に加えた独自性をいかに発揮できるかが勝敗のカギを握ることでしょう。今後自分の居住エリアに目新しいスーパーマーケットが登場する、パワーアップした、これから登場するなど、スーパー新業態の動向から目が離せません。