習近平国家主席率いる中国が、日本を含む世界53カ国、100カ所以上に「非公式警察署」を設置していたことが問題視されているが、新たな衝撃情報が飛び込んできた。中国共産党が中国マフィアと共謀して、海外の人権活動家や反体制活動家を弾圧していると米国の調査報道機関「プロパブリカ」が、報じたのだ。プロパブリカは少数精鋭で調査報道を行うオンラインメディアで、米ジャーナリズムの最高峰ピューリッツァー賞を複数回受賞している。中国は体制維持のために、組織犯罪集団も利用しているのか。ジャーナリストの長谷川幸洋氏が迫った。
米調査報道機関「プロパブリカ」が12日、中国共産党は「中国マフィアと共謀して、海外の人権活動家や反体制活動家を弾圧している」と報じた。中国が世界各国に設置した「非公式警察署」が大問題になったが、何と警察はマフィアとグルになっていたのだ。
記事によれば、両者の共謀が発覚したのは、イタリア中部の町、プラトで2010年に起きた殺人事件がきっかけだった。6人の中国マフィアが、抗争相手だった2人のマフィアをなたで殺害した。地元警察が捜査したところ、17年になって電話盗聴から、殺害したマフィアのボスがイタリアを訪問した中国共産党代表団のメンバーと会っていた事実を把握したという。
代表団のトップは当時の中国副首相で、イタリア首相と会談していた。普通の国なら、とてもマフィアが会えるような相手ではない。なぜ、会っていたのか。
イタリアの国家安全保障関係者は「彼らは領事館がやらない仕事をする。しかも、上手に」と記事で証言している。「やらない仕事」とは何か。人権・反体制活動家に対する弾圧である。
中国共産党とマフィアの共謀は双方にメリットがあった。共産党は地元の中国人社会に深く食い込んでいるマフィアならでは、の情報を入手できた。見返りに、マフィアは共産党からさまざまな便宜を図ってもらっていたのだ。
例えば、マフィアのボスは中国で指名手配されていても、イタリアと中国を自由に往来できた。「オマエたちは情報を集めろ。そうすれば、違法だろうが何だろうが、大いに儲けさせてやる」というわけだ。
こうした共謀がプラトで始まった背景には、現地で中国人社会が発展していた事情がある。人口20万人のうち中国人は4万人、うち1万人が不法移民といわれる。マフィアは売春や賭博、麻薬密売、文書偽造、詐欺など、あらゆる犯罪に手を染めていた。
スペインの非政府組織(NGO)「セーフガード・ディフェンダーズ」が昨年9月に世界に暴露した中国の非公式警察署とも、マフィアは深く関わっている。
福建省福州市が昨年3月、プラトに開いた非公式警察署の開所式には、イタリア警察が「地元マフィアのトップ」とみなす人物が出席し、記念写真に収まっていた。
中国は法を無視した「ギャングのアジト」
まさに、「警察とマフィアがグル」になっていた証拠である。中国は「警察ではなく、在外中国人の運転免許証を更新する事務所」などと言っているが、真っ赤な嘘どころか、法を無視した「ギャングのアジト」と言っていい。
それだけではない。
プロパブリカは、中国の国営銀行がマネーロンダリングなどの違法行為に手を染めていた事実も報じている。
例えば、中国最大の国営銀行である中国工商銀行は16年、スペインで密輸と脱税などの容疑で摘発され、逮捕者を出した。フランスでは中国銀行が20年にマネーロンダリングで摘発され、400万ドルの罰金を科された。イタリアでも2200万ドルの罰金を支払っている。
イタリア当局の関係者は、こうした実態を「一種の国家犯罪」と語っている。私は、むしろ「中国という国自体が犯罪国家ではないか」と思う。
欧州で起きている事態は日本も無関係ではない。東京・池袋や新宿など、各地の繁華街でも起きているはずだ。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。