マンションなど集合住宅のベランダで紫煙をくゆらせる「ホタル族」への風当たりが強くなっている。
神奈川県内のマンションに住む40代の主婦が憤る。
「隣の部屋は夫婦そろって喫煙者。時間を問わずベランダでひっきりなしに吸うので、爽やかな陽気の日でも窓を開けられない状況です。しかも、夜中にたばこを吸いながら大声で携帯電話をしていることも多く、余計に腹が立ちます。
注意したいけれど逆恨みされたら怖いし、ウチも子供が騒いでいるときがあり、迷惑をかけているかもしれないので我慢しています。一応、管理人さんにお願いして、喫煙者に気遣いを促す文書をエントランスに貼ってもらいましたが、状況は変わりませんね」
ただでさえ隣人とのコミュニケーションが希薄な時代。対面でのトラブルを避けようとして、よけいに事を荒立ててしまうケースも増えている。
千葉県のあるマンションでは、どこかの部屋から風に飛ばされてベランダに落ちてきた吸い殻を住民が写真撮影。たばこのパッケージ写真とともにエレベーター内に掲示し、独断で“犯人捜し”をしたことが管理組合で問題視された。
では、一般的にベランダでの喫煙はどこまで許されるのか。
「集合住宅のベランダは『共用部分』にあたり、基本的には火気厳禁。ただ、管理規約に“共用部分は禁煙”とはっきり明記していない場合は、強制的に喫煙を制限することはできません。規約を変えるのも、区分所有者の4分の3以上の賛成が必要なので簡単ではありません」(マンション管理士)
近年建てられたマンションの中には、1階に灰皿を設置して喫煙スペースにしたり、無線LAN付きの居住者用喫煙室を設けたりと「分煙化」を進めるところもあるが、喫煙者のことを考えているのはごく限られた物件だ。
愛煙家にしてみれば、職場や公共施設、レストランなどで次々と喫煙場所がなくなる中、もっとも心休まる自宅での一服も許されず、ますます肩身の狭い思いを強いられている。
「家族が出掛けている間に、キッチンの換気扇に向かって背伸びをしながら吸っているので、まったく落ち着かない」(50代の喫煙者)
だが、いくら部屋の中で吸っても問題が解決したとはいえない。「開口部や排気ダクトを通して室外に煙が流れるので、完全に防止することはできない」(前出・マンション管理士)
ここまでくると、集合住宅は全面禁煙化するしかないが、一方的な“ホタル族狩り”は行き過ぎのきらいもあるだろう。近隣住民に迷惑をかけないよう配慮しながら吸っていれば、ご近所トラブルを未然に防ぐこともできるからだ。
「隣の住民とは子供同士が仲がよいので、例えば奥さんが洗濯物を干しているときは玄関のほうでたばこを吸ったり、子供たちの声が聞こえていたら車や外の喫煙所に行ったりするよう心掛けています。
そうしたマナーを守らない一部の住民のために、すべての喫煙者をマンションから締め出してしまうのは反対です」(都内在住の40代男性)
たばこに限らず、近隣住民トラブルは多様化している。多くの世帯が共同生活をするうえで、なんらかのトラブルが発生するのは仕方のないことだ。
しかし、住民同士のコミュニケーションや気遣いがないままに、すべての問題を頭ごなしに規制していたら、かえってモラルの低下は食い止められないばかりか、快適な住環境が失われかねない。