【マンション業界の秘密】35年前、2人のサラリーマンが東京でマンションを買った。1人は郊外の駅から離れた場所に広めの4LDK。もう1人は近郊の駅近で狭い2LDK。価格はそれぞれ4000万円前後と、あまり変わらなかった。
35年後の今、彼らはすでに定年を迎えて年金生活を送り、住宅ローンも払い終えた。そして、それぞれに自宅の売却を考え、不動産会社に査定を依頼した。
その結果、郊外の4LDKは800万円。近郊の2LDKは3200万円と評価された。何と査定額に4倍の差が生じている。なぜ、これほどの差がついてしまったのか。
分譲マンションというのは、一戸建てなどに比べて換金性が高い。つまり、売りやすい不動産である。しかし、購入の選択を誤れば、数十年後には資産価値が数分の1になる。収入や学歴と同様に厳しい格差が生じるのだ。
最近、「マンション格差」(講談社現代新書)という拙著を上梓した。
これからマンションを買おうとする方、すでに買って住んでいる方に対して、格差はいかにして生まれ、膨らんでいくかを私なりに解説した。
誤解してほしくないのだが、すでに買ってしまったからといって手遅れではない。できることはたくさんある。まだ買っていないのなら、将来の格差がどうなるのかを考える一助になればと思う。
マンションの格差というのは、資産価値評価という数字で出てくるから、ある意味で残酷だ。
住んでいて家族が満足していればいいじゃないか、マンション購入を「勝ち組」や「負け組」で判断するな、という議論もある。郊外の4LDKで家族が30年以上も伸びやかに暮らせたから、それでよかったという考え方もある。あるいは、狭い2LDKで家族が窮屈な思いをしながら年月を過ごした、ととらえることもできる。
マイホームに対する価値観は人によってさまざまである。私はそれについてとやかく言いたいのではない。ただ1つ、マンションには資産価値という評価基準があり、それによる厳然たる格差が生じている、という現実を示したかった。
家を何回も、何軒も買えるような富裕層は一部でしかない。多くの人は35年という長期返済の住宅ローンを組んで、マイホームを購入する。その時、いったい誰が35年後の現実を想定しているのだろうか。
今や不動産は所有していれば自動的に資産価値が上昇する時代ではない。物件の選び方次第では、子供たちに厄介な負の遺産を残してしまう。
格差社会は弱者にとって生きにくい。同様に低評価のマンションも、これからの時代では厄介な存在だ。郊外の駅から遠い4LDKを喜んで相続する人はいない。賃貸に出すにしても借り手を見つけるのも大変だ。
このいや応のないマンション格差の現実について、社会はもう少し関心を払うべきだ。また、行き場のない低評価マンションの出口を見つけ出すべきではなかろうか。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「年収300万円でも家が買える!」(WAVE出版)など多数。