かつて、マンションの駐車場は「設置台数が足りない」ことが大問題でしたが、クルマ離れが進んだ結果、今では逆に持て余し気味に。特に機械式駐車場は維持コストも高く、その撤去が課題になっています。住宅ジャーナリスト、櫻井幸雄さんのリポートです。【毎日新聞経済プレミア】
昭和の時代、マンションの敷地内駐車場は、設置台数が多ければ多いほど喜ばれた。私が1988(昭和63)年に購入したマンションは、横浜市内で駐車場設置率が8割だった。つまり、総戸数の8割に匹敵する駐車スペースがマンションの敷地内にあったのだが、それでも足りず、抽選が行われた。
◇「全戸確保」目指した昭和の時代
ほぼすべての人が駐車場使用を希望し、なかには2台の駐車スペースを借りたいという人もいたので、大幅に足りなかったのである。
そこで、平成に入ってから増えたのは、「駐車場設置率100%」のマンション。つまり、全戸に1スペースずつ駐車場が確保されるようになった。それをみて、昭和時代に建てられたマンションのなかにも、駐車スペースを増やすマンションもあった。マンション所有者がお金を出し合い、駐車場を増設したわけだ。
といっても、マンションの敷地内で「駐車場設置率100%」を達成するのは容易ではなく、機械式駐車装置を使用することが多かった。
新築マンションの敷地内に駐車場を設けるときも、既存のマンションに駐車場を増やすときも、電動式の駐車装置を導入することが多かったわけだ。
◇高くつく維持コスト
この機械式駐車場が、今、多くのマンションでお荷物になっている。
というのも、機械式駐車場はパレットを動かす電気代や保守点検料など維持費が高いからだ。機械式駐車場の月額使用料は5000円から1万5000円程度になることが多い。仮に1万円として、全150戸のマンションで150台分の機械式駐車場がフル稼働している場合、毎月150万円の駐車場使用料が管理組合に入ってくる。
この150万円が丸ごと維持費にまわるようになっている場合、駐車場利用者が減れば、影響が大きい。たとえば、150台のうち100台分しか利用されず、駐車場使用料が月に100万円しか入ってこない場合、維持費として50万円が不足する。
この不足分を管理費から補おうとすると、今度は管理費が足りなくなる。そこで、管理費を値上げしようとすると、「駐車場を使っていない人間からお金を取るのか」と反対する人が出てくる。
空いている駐車スペースをマンション居住者以外に貸し出すというプランも考えられる。だが、セキュリティー上の問題が生じたり、賃貸収入について管理組合に法人税課税されたりするなどの問題があり、簡単にはできない。
一戸建ての駐車スペースならば、空いた駐車スペースを自転車置き場やテラスの一部として転用することができる。しかし、マンションの機械式駐車場は転用しにくく、使わなくても維持費が発生し続ける。さらに、機械式駐車装置の寿命が尽きたときに、装置全体を交換しなければならない、という大きな問題もある。
将来の機械式駐車装置交換の費用を見越して、せっせと積み立てているマンション管理組合は、実は少ない。そこで、交換が必要になったとき、大問題が起きる可能性があるわけだ。
◇設置率は低下へ
駐車場利用率が下がったからといって、装置を撤去し、平らな場所に埋め戻すにはお金がかかる。埋め戻す工事の期間や、利用中の車をどこに置くかなどの問題があるため、簡単にことは進まない。
駐車場を増やす工事より、減らす工事のほうが実現はむずかしいかもしれない。
現在首都圏の新築分譲マンションでは、マイカー所有率の低下にあわせ、駐車場設置率30~50%というケースが増えた。駐車場設置率が80%以上の場合、機械式駐車場ではなく、舗装した面に線を引くだけの平面式駐車場や自走式駐車場(3階建て以上の駐車場棟で、自ら車を運転して自分のスペースまで行く方式)が主流。駐車場の維持費が将来の負担にならないようにしている。