マンション管理新規約

全国に600万戸超、人口の10%超が住むマンションで、居住者が毎月費用を支払っている管理組合に激震が走りそうだ。国土交通省が、マンション管理組合 の「コミュニティ形成」(コミュニティ条項)という言葉を新たな標準管理規約案から削除する方向を打ち出したためだ。住まいに関するさまざまなトラブルに 対処する“マンション自治”を担ってきた管理組合から、その役割が取り払われる。数年間にわたる管理会社、管理組合団体の猛反発を押し切った格好。漂流す るマンション自治はどこへ向かうのか。

マンションのストック戸数は増加を続け、最近の国交省の推計(2013年末)では600万戸超となり、居住者も約1480万人と全人口の10%を超え た。たくさんあることの例えとして「5万とある」という言葉が使われるが、「600万もある」というのがマンションストックの現状。なおも都心には超高層 タワーマンションが次々と建設されており、都心区部の中にはマンション居住者が7、8割を占めている区もある。まさにマンション抜きに日本の住宅は語れな い状況だ。

そのマンションをめぐり、ここ数年、国交省とマンション学会・管理組合組織・管理会社団体などの間で熱いバトルを繰り広げられていたのが、標準管理規約 から「コミュニティ条項」を削除するか否かという議論。約3年前に国交省側が削除を打ち出したが激しい反発に合い、いったん棚上げされていた。

しかし、今年3月27日に国交省の「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」(座長・福井秀夫政策研究大学院大学教授)がまとめた報告書案では、 04年1月の標準管理規約改定以降、ほぼ10年間、マンション生活の基本に据えられてきた「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」 (現行の標準管理規約第32条15項)の削除が打ち出された。「新標準管理規約」として、近くすべてのマンションに適用される見通しだ。管理組合からその 役割が奪われることになる「コミュニティ形成」とはどういうものか。

マンション管理組合といえば、日常的に発生するマンション内のトラブルやもめ事の解決へ向けた調整などを担っている。例えば生活音、水漏れ、悪臭など住 民間で処理できない問題を、弁護士・司法書士に持ち込む前に、両者の間に入って調整することなどだ。もちろん、こうした対応は、管理組合の理事長や理事が 管理会社の社員と相談をしながら調整するのだが、日常的に発生するこうした問題も住民同士、管理会社と住民の間で形成したコミュニティーの中でコミュニ ケーションがとられているとスムーズに事は収まる。

さらに、市役所、消防署、電力会社、警察、銀行などコンタクトを取らなければならない外部との交渉は多い。その中には、町内会(自治会)とのつながりも 出てくる。マンション内の樹木が秋に実をつけ、その実が風に乗って隣近所に舞ったり、駐車中の近所の乗用車に降り積もったりして、相当な被害が発生すれ ば、管理組合の理事長は「善管注意義務」が発生すると考えられる。そうした問題に対処するために日常の地域コミュニケーションが必要になる。これまでのマ ンション管理で当然の業務であり、管理組合と管理会社の連携で取り組まれてきた。

ではなぜ、こうした管理組合のマンション自治の役割が否定されることになったのか。報告書案では「マンションの今日的な問題(高齢化に伴う役員のなり手 不足、外部専門家の役員就任とその適格性、理事会における議決権の代理行使など)」に対処したものとしている。役員のなり手不足で自治まで手が回らない管 理組合も多く、第三者も役員になれるようにしたというわけだ。

また、マンション管理費から自治会費(町内会費など)や役員の飲食費への支出について、訴訟リスクが発生する恐れがあるとの判断もある。マンション所有 者が強制加入し、管理費を支出する管理組合が“自治”の名のもと、管理費を無駄遣いすることを防ごうというのだ。実際にこうしたもめ事は全国で発生してお り、裁判にもなっている。自治関連の支出がなくなり、管理組合が純粋に建物などの財産管理だけを担うことになれば、管理費が安くなる可能性もあり、コミュ ニティ条項削除の判断は、マンション所有者にとっては合理的ともみえる。

一方で管理組合団体や管理会社が懸念しているのは、マンションの“自治”がおろそかになり、さまざまなトラブル対処ができなくなれば、「マンションの資 産価値に響く」(管理会社関係者)可能性があるためだ。国交省側も、こうした懸念に配慮し、報告書案では「今回の標準管理規約の見直しは(中略)コミュニ ティに係る規定について、管理費の支出をめぐり、意見の対立や内紛、訴訟等の法的リスクがあるという法律論から行っているもので、別途の政策論からは、マ ンションのコミュニティー活動は積極的に展開されることが望ましい」とし、マンション自治そのものの重要性を否定はしていない。

しかし、管理組合と別に任意の自治会を作るのは実際には容易ではない。仮に第三者にもめ事の解決などを委ねるとしても「従来の管理費より出費がかさむことになるのではないか」(関係者)という見方もある。

14年の月額平均のマンション管理費は1万4000円、同じく修繕積立金7200円で計2万1200円ほどが各住戸から管理組合に動いている。単純に 600万戸で掛け算すると1200億円強となり、その12倍の1兆5000億円前後が1年間に動く。管理組合からはがされる新たな“自治”と巨額の金額は 今後どう動くのか。最終的な着地点はまだ見通せてはいない。(不動産ジャーナリスト 伊能肇)

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