ミサイル着弾時の緊急一時避難施設、看板なし・マニュアル未整備…会社員「言葉すら知らない」

全国の自治体がミサイルが着弾したときの爆風などから身を守る緊急一時避難施設の指定を急いでいる。約5万2000か所の公共施設などが選定されたが、住民への周知や受け入れ体制の整備は追いついていない。(成田沙季、徳井観)

 内閣官房はホームページで、緊急一時避難施設の名前や住所を公表している。しかし、建物に避難施設と示す看板を設置しているケースはほとんどない。

 3日朝、新潟市中央区の自宅にいた会社員(36)は、スマートフォンに流れたJアラートの情報でミサイル発射を知った。窓から離れようと思ったが、自宅から避難することは考えなかった。そもそも「緊急一時避難施設」という言葉も知らなかった。

 自宅近くの指定施設は、子どもを連れて遊びに行く新潟県スポーツ公園の管理事務所だが、それと分かる看板はない。会社員は「避難場所と示すものがなければ、いざというときに動けない」と話した。

 新潟県は昨年4月1日時点で、1346か所を確保したが、看板の設置は進んでいない。県危機対策課の高橋正樹課長補佐(55)は「具体的にどのように知らせるべきか国が示してほしい。看板を設置する場合、費用も心配だ」と話す。

 内閣官房は「現地にピクトグラム(図記号)による表示を設置することも含め検討中」としている。

 国は、2025年度末までを緊急一時避難施設を集中的に確保する期間と位置づけているが、避難者の受け入れ体制にも課題が浮かんでいる。

 「防犯のため学校の入り口は日中も閉め切っている。避難してきた市民を即座に招き入れるのは難しい」。校舎が指定施設になっている都心の小学校副校長は、読売新聞の取材にこう明かした。

 内閣官房によると、国による緊急一時避難施設向けの運用マニュアルは整備されていない。都内の別の区立小副校長は「大地震が起きたときは、地域の防災団体が校舎の入り口を解錠することになっている。しかし、有事の受け入れ手順について、教員間で話し合ったことはない」と語る。

 東京メトロでは5月以降、58の地下駅が緊急一時避難施設に指定された。有事の際は、大量の避難者が一斉に逃げ込む可能性があるが、担当者は「そのときの駅員の動き方は決まっていない」と話す。

 都営地下鉄も57駅が指定されたが、有事の対応は定まっていないという。

◆緊急一時避難施設=2004年に施行された国民保護法で、都道府県知事や政令市長に確保が義務づけられた「避難施設」のうち、コンクリート造りなどの頑丈な施設。避難者が1〜2時間程度身を寄せることを想定している。大半は小中高校など公共の建物が指定されている。

国民保護行政に詳しい防衛大学校の宮坂直史教授(危機管理)の話「一口にミサイル攻撃といっても、弾頭の種類や爆発の状況、攻撃がどれくらい繰り返されるかといった状況によって、起き得る被害は千差万別で、全ての状況は想定しきれない。だからこそ、まずは既存の施設を活用して避難訓練を重ねるなど運用面を改善していくことが合理的だ」

危険迫ったら…窓から離れる

 危険が差し迫ったとき、どう対応したら良いのか。

 ミサイルが着弾すると、激しい爆風とともに破片の飛散が予測される。内閣官房は、周りにある建物に逃げ込んだり、自宅にいるときは、ガラスの破片から身を守るため窓から離れたりするように求めている。屋外では、地面に身を伏せ、頭を守ることも有効という。

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