【すごいぞ!ニッポンのキーテク】
発電時に二酸化炭素(CO2)を出さない太陽光発電などの自然エネルギーをフル活用することで、生活時に住宅から出るCO2を差し引きゼロ、あわよくばマイナスに-。そんな夢のようなエコ住宅をミサワホームが開発し、今年度内をめどに売り出す。
新設住宅着工戸数がピーク時の半減以下となる80万戸まで落ち込み、今後も少子化で回復が見込みにくい中、環境をテコに他社と差別化しシェアアップにつなげる狙い。同業他社も続々と同様の住宅開発に名乗りをあげており、将来はCO2ゼロ住宅が主戦場となりそうだ。
「エポックメーキングなこの住宅には“すごい”という声ばかり寄せられている」
CO2ゼロ住宅の開発を指揮したミサワ・ホーム商品開発部第一設計グループの石塚禎幸マネージャーは、自社の究極の環境配慮型住宅のでき映えに胸を張る。
同社は昨年11月、東京都杉並区にCO2排出が差し引きゼロとなる住宅の試験棟「エコフラッグシップモデル」を建設した。
発電能力9.52キロワットの太陽光発電に加え、そこで発電した電気をためる蓄電池を設置。自然エネルギーをフルに活用するため、家の形状自体も太陽光を取り込みやすい南面に大きな面積を確保できる仕組みを採用した。太陽光と太陽熱を回収して冬場の暖房に使うカスケードシステムも導入した。壁やガラスにも断熱性能に優れたタイプを取り入れ、照明は消費電力の少ないLED(発光ダイオード)や有機EL(エレクトロルミネッセンス)を採用。電気自動車の充電ステーションも設けられている。
これら高効率の設備などをIT技術を使ってネットワーク化し、発電量や電気・ガス・水道使用量、CO2排出量などをモニターに表示するシステムも組み込み、省エネ意識の向上にもつなげられる。
最新の環境技術をフル活用することで、生活時に出るCO2をむしろマイナスにもできることから、家を建設する際などに発生するCO2も「数十年で吸収できる」(同社)という。価格はトータルで数百万円割高となる見込みだが、太陽光発電で生み出した電気を売電すれば、初期負担の費用増分は数年で回収可能とみている。
この住宅のコンセプトは「木を植えるがごとく家をつくる」。CO2を吸収する木のように、家を生態系の一部に組み込むという発想だ。今後、杉並での実証結果を踏まえ発売に乗り出す構えで、CO2排出量全体の15%程度を占める「家庭部門の排出量削減に寄与できれば」と意気込んでいる。
CO2排出ゼロ住宅は他メーカーも続々と開発している。大和ハウス工業は昨年7月、発電能力9.6キロワットの太陽光発電や、外張り断熱機能付きの外壁を標準装備した「ジーヴォ・ユウ」を発売。4人住まいの場合、生活時に出るCO2は差し引きでゼロ以下という。今年度2400棟の販売を目指している。
2011年度内にCO2ゼロ住宅の販売を計画するのがパナホームと住友林業だ。パナホームは昨年7月、滋賀県の工場に太陽光や蓄熱材を採用した実験住宅を完成させ、住友林業も茨城県の研究所で同様の設備を取り付けた実験住宅でデータの蓄積を進めている。
各社の背中を押すのは、政府が2020年にCO2ゼロ住宅の標準化を目指していることだ。他社より早く高性能のエコ住宅をつくれば企業イメージも向上し販売拡大につなげられるだけに、性能とコストを両立させる開発競争が激しさを増しそうだ。(今井裕治)