ミドリムシ(学名=ユーグレナ)市場が急拡大している。長さ約0.05ミリの藻の仲間で、東大発ベンチャーのユーグレナが大量培養を実現。59種類もの栄養素を持つことから飲料や食料への活用が相次ぐほか、油脂分も多く含むため燃料としての実用化も期待される。流通や食品など業界大手各社によるミドリムシ争奪戦の様相を呈してきた。神戸製鋼所の子会社が新たな量産技術を確立するなど供給側の競争も始まり、市場はさらに“増殖”しそうだ。
◆「先駆者」ユーグレナ
「ミドリムシのことを知って感銘を受けた。将来的には弁当などにも生かしたい」
10日、ファミリーマートが開いたユーグレナ配合新商品の発表記者会見。同社商品本部FF・パン・デザート部長の赤荻達也氏は、ユーグレナの商品力に強い期待を示した。
ファミリーマートが発表した新商品は、同社オリジナル商品3種類を含む8種類で、ユーグレナを配合したパンのほか、スムージーやプリンなどのデザート。会見に同席したユーグレナの出雲充社長は「ミドリムシ原料の食品が欲しいが、手に入らないという消費者の不満を解消できる」と新たな販路による市場拡大へ自信を示した。
16日にはユニーグループの店舗でもユーグレナを使ったデザートなどが発売された。今年4月にはイトーヨーカ堂とユーグレナが「ミドリムシカラダに委員会」を発足させ、カゴメやロッテ、カルビーなど食品メーカー8社が参加。各メーカーによるユーグレナを使った食品をイトーヨーカドー店舗で販売する取り組みも始まっている。
ミドリムシは植物のように光合成を行いつつ泳ぐように動く植物と動物両方の性質を持つ生物だ。ビタミン、ミネラル、アミノ酸などの栄養素を体内に豊富に蓄えており、日々の食生活では足りない栄養素を補える。
商品化の先駆者となったユーグレナの出雲社長が起業したきっかけは、東大1年生の頃に訪れたバングラデシュで、住民が栄養失調で困っているのを目の当たりにした体験だ。その後、農学部でバイオを学ぶ過程でミドリムシに出合った。栄養素の生産効率の高さから「ミドリムシで栄養失調の問題が解決できる」との確信を抱き、2005年にミドリムシを使った健康食品の製造・販売会社を設立した。
強い日差しがある沖縄・石垣島での大量培養は、まずフラスコから始まり、タンク、巨大なプールに移していく。“収穫”まで2カ月以上かからない効率性も特徴だ。
08年に伊藤忠商事と提携し、クッキーなどの食品に原料を供給する事業を展開。最近は「飲むユーグレナ」「飲むミドリムシ」など自社ブランド飲料をコンビニやスーパーで販売し、流通・食品各社の注目を集めた。
化石燃料の代替燃料としても期待されており、いすゞ自動車とはミドリムシ由来のバイオディーゼル燃料を使ったシャトルバスの運行を7月からスタート。JX日鉱日石エネルギーなどと共同でジェット燃料開発も進め、18年までに技術を確立し20年の事業化を目指している。
ユーグレナは業績も急速に伸び、14年9月期の予想売上高は前期比約5割増の約31億円。18年9月期には、その約5倍となる150億円の売り上げを国内だけで確保する計画だ。
◆ライバル現れ新段階
ユーグレナの独走に待ったをかけようと競合も現れた。神戸製鋼所の子会社で環境装置大手の神鋼環境ソリューションが今月8日、ミドリムシの新たな量産技術を確立したと発表。「強い日光がなくてもどこでも量産可能にした」(神鋼環境ソリューション総務部)点が特徴で、来年度には10立方メートル槽で大量培養を始める。16~17年度にも食料品向けに供給し、「20年以降の早い時期にバイオ燃料としても売り込む」(同)計画だ。
迎え撃つユーグレナも「バイオ燃料への需要に応えるため、生産設備を増強していく」(出雲社長)方針。18年には東南アジアを中心に海外でも300億円規模の市場創出を目指す。出雲社長の当初の理念通り食糧問題への貢献だけでなく、エネルギー問題の解決にも役立つ技術として世界の注目を集める日が近いかもしれない。