「20XX年、人間の仕事がAI(人工知能)に奪われる」──“AI失業”は、様々なメディアでたびたび報じられてきたが、その一方で少なからぬ人はこんな感覚を抱いていたはずだ。「まだ先の話」「ごく一部の仕事」──と。
だが、その「20XX年」は2017年、まさに今だった。株式市場が活況を見せ、政府が雇用拡大を喧伝する中で流れた、メガバンク3行の業務量削減策が経済界に激震を走らせた。
10月28日、みずほフィナンシャルグループ(FG)が今後10年で1万9000人分の業務量削減を検討していることが報道されると、三菱東京UFJ銀行が約9500人、三井住友FGは約4000人相当の業務量を減らす方針であることが相次いで報じられた。
3行合わせて3万3000人の「銀行員の仕事」が消える──。過去の「クビ切りリストラ」と違う点は、3行ともAIなどの活用によって人員や業務のスリム化を図るとされていることだ。
例えばみずほFGは、バブル期の大量入社世代の大量退職や新規採用の抑制によって、国内外の従業員数を現在の約6万人から約4万人にまで削減する方向だが、その「削減分」は窓口業務のデジタル化や、AIを活用して穴埋めしていくことになるという。
三菱UFJや三井住友も店舗の統廃合を軸に業務の自動化を推進。それに伴う余剰人員人材は別の部署に配置替えさせることを検討中だと見られている。各社とも、急速にAI化に向けて舵を切っていることは間違いなさそうだ。経済紙記者はその背景をこう読み解く。
「マイナス金利政策の影響で法人融資や国債保有の利ざやが減り、これまでのビジネスモデルに転換が迫られている。業績の赤字転落を避けるためにはAI活用による業務効率化が急務だったのでしょう」
業務純益は三菱UFJとみずほがともに2割を超える減益(2017年3月期決算)。三井住友も2018年3月期決算では最終利益が1割超落ち込む予想だ。
報道について三井住友は「テクノロジー等の活用により、本社部門の業務プロセスや営業部門の事務プロセスの高度化・効率化を図る」(FG広報部)と答え、他の2行は「まだ決定事項ではない」との説明だったが、いずれも「人員カットではない」との見解は共通している。
だが、これまで人が担っていた業務が、AIに変わっていくという流れは、当の銀行員たちが実感している。バブル後入社世代の40代メガ行員はこんな本音を明かす。
「これが“AIリストラ”に向けた地ならしだという危機感はある。入社した頃は“銀行の仕事は人と人との繋がりが重要”と教えられてきた。だが、マニュアル化が進んだ現在の業務内容を見る限り、“人でなくてはできない”とはなかなか言いにくい」