メジャーリーガーから注文殺到!「Made in 埼玉」の小さな野球用具メーカーの秘密

–「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。–

 2月1日、プロ野球12球団のキャンプがスタートする。さまざまなスポーツへの関心が広がった現在でも、プロ野球キャンプの様子やスター選手、注目新人の動向は、多くのメディアが報道する。選手のパフォーマンスを支える野球用品メーカーも忙しい時期だ。

 そうしたメーカーのなかで近年目立つ会社が、「ベルガード」だ。特に捕手が着けるマスク、プロテクター、レガースや、打者が手足につけるアームガード、フットガードといった「防具」に定評がある。今では多くの米メジャーリーグ(MLB)選手が愛用するブランドとなった。

「現在、メジャー30球団のうち9球団の4番打者が使ってくれています。そのなかには、ニューヨーク・ヤンキースのジャンカルロ・スタントン選手、ニューヨーク・メッツに移籍したロビンソン・カノ選手や、同僚のヨニエス・セスペデス選手がいます」(永井和人社長)

 前身のベルガード株式会社は2012年に経営破綻したが、同社社員だった永井氏が商標を引き継ぎ、新会社のベルガードファクトリージャパン株式会社を設立。以後、新会社は増収増益が続く。売上高は非公開だが、わずか4人の従業員数で倒産前の数字に迫ったという。

 手前味噌を承知で記すと、最初にメディアとして同社に注目したのは当連載だ。2016年1月29日付記事『国内外の一流プロ野球選手から注文殺到!小さな用品メーカー、なぜ倒産から復活&急成長?』で紹介した。この記事以降、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ネットメディアで同社を取り上げる例が相次いだ。

 今回は、最初に紹介した「説明責任」として、現在の同社の取り組みと課題を分析したい。

●防具の評判がグローブ人気にも波及

 MLBの選手が同社の防具を好んで使用するのは、その機能性に納得したからだという。実際に使用する選手の要望に応じて、使い勝手を細かく調整する。かつてMLBでは防具をつけない選手も目立ったが、最近はケガ防止のために使用する選手が多くなった。

「もともとは十数年前、私の知り合いがシアトル・マリナーズのチームトレーナーをしていました。彼を通じてチームの選手たちが使い出し、その後、別のチームに移っても使い続け、口コミで広がっていったのです」(永井氏)

 一方、日本のプロ野球選手は、専属契約の関係で、契約外の会社の製品を使用しにくい。そうしたMLB選手が愛用するベルガード防具人気が、ほかの同社製品に波及したのも近年の現象だ。特にグローブが人気で、年々販売数が増加している。

 ベルガードは長年、グローブも企画製作していたが、前身企業は防具がOEM(相手先ブランドとしての製造・販売)だった関係もあり、ブランド名が目立たなかった。それが「使いやすくてデザイン性もいい」(使用者)という声が高まり、ネット販売も伸びた。

 現在は「ベルガード」ブランドと、「アクセフベルガード(AXF)」ブランドのグローブがあり、それぞれ投手用、捕手用(ミット)、内野手用、外野手用がある。ちなみにグローブの希望小売価格は、前者ブランドが軟式用・2万8000円、硬式用・4万5000円からで、後者は6万円から(いずれも税別)と高額だ。

●NPB有名選手が愛用する「ネックレス」

 アクセフベルガードが高額なのは、使用すると「体幹の安定・バランスの向上・リカバリーが期待できる」機能性商品の一種だからだ。衣料メーカー、サンフォード(本社:岐阜市)、高齢者の転倒防止ベルトも手がけるテイコク製薬社(同:大阪市)と共同開発した。IFMC(イフミック=集積機能性ミネラル結晶体)と呼ぶ機能で、特許出願中だという。

「AXF」ロゴが一般に注目されたのは日本のプロ野球界(NPB)で、坂本勇人選手(読売ジャイアンツ)らが装着したネックレス(4500円+税)だ。同選手は「試しに装着した試合でホームランを打ち、手放せなくなった」という話も耳にした。

 それ以外の選手も装着する姿がメディアで報じられて売れゆきも加速。たとえば京都市のスポーツ用品店で、昨年の売り上げ№1となるなど、販売は絶好調だ。健康系ネックレスなどの機能性商品では「ファイテン」が知られているが、ここにAXFも参入したのだ。

 一方で懐疑的な声もある。

「あのネックレスは怪しい。健康機能性をうたう胡散臭い商品に思える」(メディア関係者)

 筆者も直接このような声を耳にしたので、永井氏に聞いてみた。

「そうした声も承知しています。実は私自身、その手の商品には懐疑的でした。そこで販売前の仮仕上がり品を、まずは周囲の関係者で試したところ、毎日装着する人から『これはいい』という声が目立ちました。腰が曲がっていた80代の女性は、かなりピンとなりました。最近は国内各地の接骨院での取り扱いも増えていますが、それだけでは説得力がありません。大学や研究機関と連携して、効果・効能を科学的に検証することを行い、エビデンス(証拠や根拠)を充実させています」(同)

●他社と連携する「効果」と「懸念」

 ここでいう「大学との連携」とは、たとえば東京都市大学(本部:東京都世田谷区)に「ミネラル結晶体研究センター」が設立されて、昨年に記者発表が行われたことだ。ちなみに、ファイテンは、かなり前から京都府立大学(同:京都市左京区)と連携している。企業側が資金を出す「寄付講座」として研究を進める(AXFはテイコク製薬が出資)のも特徴だ。

 ただし、いつも企業側から働きかけているわけでもない。取材すると、大学教員から「研究してみたい」という話があり、連携につながったケースもある。

筆者は数年前、疲労回復を促す「リカバリーウェア」を開発するメーカーを取材した。その際も、国内外の「大学との連携」や、自治体も加えた「産学公連携」を強調していた。自治体が加わる場合は、助成金を活用することもある。言うまでもないが、研究機関での検証などには活動資金も必要だ。各社それぞれの手法でエビデンスに取り組んでいる。

 だが、こうした連携が成長するほど、ベルガードにとって「諸刃の剣」となりかねない。

「ベルガードは、丁寧な防具やスポーツ用具づくりに定評があったメーカーですが、最近の活動はどうでしょう。健康機能性商品は一歩間違えると、世の中の反発も大きい。従来型の商品の信頼性にも影響しかねません」(出版社の編集長)

●「企画製造」をどう考えるか

 経営の視点で考えると、筆者はベルガードが次のステージに入り、今後はどちらにアクセルを踏み込むかの「岐路」に立ったように思う。新会社設立後、順調に成長して注目度が増し、他社からの提携・連携の引き合いが増したからこその「岐路」だ。

 もちろん、企業は時代とともに変身しなければならない。だが今回は、小さな会社が、ヒト・モノ・カネ・情報という「限られた経営資源」を見据えた変化となる。現在のベルガードは、業績が拡大しても人員は増やしておらず、埼玉県越谷市の本社もそのままだ。

 筆者が最初に永井氏を取材したのは10年以上前、前身企業の社員時代だ。交わした名刺にあった「企画製造」という肩書に興味を持った。大手スポーツメーカーの分業制ではなく、川上から川下を一気通貫する小規模メーカーの心意気と受け取った。

 この言葉に従えば、防具やグローブは「企画製造」だが、コラボ商品はそこまでいかない。

 ベルガードは有名選手の専属契約も行わず、無償の用具提供のみを行う。気に入った選手が、自らのブログやインスタグラムなどで発信して世の中の注目度を高めた。そうした身の丈に合ったマーケティング、熟練職人の用具製作主体の事業を今後も続けていくのか。

「あくまでも当社は、『Made in Saitamaの防具メーカー』です。初心を見失わず、これまでどおり、丁寧なものづくりを心がけ、少しずつ前進できればと思います」(永井氏)

 急成長を続けてきた用具メーカーの「次の一手」も注目して、折に触れて報じたい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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