メディアでの年金破たん特集は、破たん論の『嘘』が判明したため減少

●主要メディアで年金破たん特集が減ったのには理由がある

「年金破たん」という言葉が、一時期はずいぶんメディアで踊ったものです。団塊世代、つまり戦後すぐに産まれたベビーブーム世代が引退して年金受け取り年齢に入り始めた頃、年金記録問題が取り上げられたことで、こうした悪いイメージに拍車がかかりました。あるいは「国の年金運用●兆円の損」という記事を見て、不安を抱いた人もいるでしょう。多くの人が、「国の年金制度は破たんするのだろう」「将来はどうせ年金はもらえないのだろう」と思っているのではないでしょうか。

ところが最近、雑誌やテレビで年金破たんの特集を見かけなくなったと思いませんか。電車に乗っても、週刊誌の吊り広告に年金破たんの大文字は踊らないですし、テレビでも年金破たんの話題は減っているように感じます。

実は、年金破たんはほとんどあり得ない、ということが明らかになってしまい、まともな学者やジャーナリストは恥ずかしくて言えなくなってしまったからなのです。

2014年6月に、国は年金財政の検証結果ということで徹底的なシミュレーションと情報開示を行いました。内容はホームページでも公開されていますが、これを読めば、そう簡単に破たんはしない、完全に支払い不能になる恐れがない、ということが示されています。

むしろ「経済成長の実現」「少子化対策の成果」「女性と高齢者の働ける社会づくり」が実現すると、むしろ年金制度の安定性が確保できることがはっきりと示されました。これは、もはや年金官僚だけがどうこうできるものではなく、国として取り組む課題そのものです。実は余計な保養施設を建てるなどの無駄づかいは、破たんにはほとんど影響はなく(もちろん、ないほうがいいに決まっているが)、国がやるべきことをしっかりやれば、年金制度の心配はないということです。

メディアというのは「年金破たんとあのとき言ったけど、嘘でした」という特集はやりませんから、なんとなく私たちには悪いイメージだけが残ってしまっています。しかし、いまだに年金破たんの話をする場合、トンデモ理論で語られていると疑ってかかったほうがいいでしょう。株価がずっと下がり続ければ、●年後には年金積立金がゼロになるなど、あり得ません(計画的に取り崩す予定はある)。

年金運用も同様で、もはや心配のいらないレベルです。なんとなくマイナス運用ばかり印象に残りますが、実はトータルでは62.9兆円のプラスです(2001年度以降、17年度第2四半期までの累積)。3カ月ごとに情報開示をするので、一時的に株価が下がると「ほらマイナスだ」とニュースになりますが、全体では手堅くお金を増やし、年金破たんリスクとはほとんど無縁の状態を維持できています。これも「年金運用、実は上手に増やす」というニュースはほとんどないので、悪いイメージだけが残っていることになるのです。

●日本の年金制度ほど潰れにくい制度はない

実は、日本の年金制度ほど潰れにくい制度はありません。というのも、日本には他国にないいくつかの特徴があるからです。

・国としての対外債務がない

世界では、外国に対して借金(対外債務)をしている国と、外国に対してお金を貸している(対外債権)国がありますが、世界で海外にお金を貸しているほうが多い国は数カ国しかありません。日本はそのひとつです。

ギリシャが財政破たんした際に大きな問題となったのは対外債務の返済で、このため国は年金制度の支給額を無理矢理減らして対応せざるを得ませんでした。いきなり受給開始年齢を上げたり、いきなり給付額を下げることになります。

日本の場合、年金制度の改正があっても、10年以上の経過期間を置くことができるくらい余裕があります。この点だけでも、日本と諸外国のどちらの年金制度にリスクが大きいかは明らかです。

・年金積立金がある

日本の年金積立金は170兆円ほどですが(2017年3月末)、これだけの規模で年金積立金を有している国は日本とアメリカくらいです。日本より人口の多い国はたくさんあっても、日本より積立金を多く持っている国はアメリカしかないわけです。

イギリスやドイツなどは、年金支払いに必要な金額の数カ月分程度分しか積立金を用意していません。「現役時代から集めた保険料をそのまま高齢者の年金に回す」というかたちになっています。実はそういう国のほうが多いのです。

日本の場合、団塊世代が一斉に引退年齢を迎え、今後数十年間にわたり年金を受け取る期間のみ、負担が急激に増加し苦しくなることが予見されていたため、この期間の保険料が急増しないようあらかじめ保険料を多く徴収したのが、この積立金です。むしろ積立金を上手に崩すことで、若い世代の負担は減ります。

年金積立金は、団塊世代がまだ現役時代のうちに多めに保険料を確保しておき、彼らの年金給付に回しているともいえます。これを上手に活用することで、年金破たんや保険料高騰を回避することができているのです。

●死ぬまでもらえることが、もっとも重要な「年金の価値」

国の年金制度は、給付額が下がったとしても制度そのものは残っていたほうが私たちにとっては得策です。というのも、「死ぬまで何年でももらい続けられる」という条件が、国の年金では保証されているからです。

老後資金の一番の難しさは、「あと何年生きるかわからない老後が、異常に長期化している」ことにあります。前世紀であれば、実は老後は10年から15年を見込めばよかったのです。簡単にいえば、「国の年金+退職金の10%」を年間予算にしてやりくりできました。1000万円の退職金をもらったとすれば年100万、毎月8万円使えます。

今は、65歳男性はあと16年(平均寿命81歳)、女性は22年(同87歳)生きることになります。さらに4人に1人は男性は90歳、女性は95歳まで生きる時代なので、「老後は30年」ともいえます。そうなれば、退職金から使えるお金は年10%ではなく3.3%です。退職金が1000万円の場合、毎月2.8万円しか使えないわけです。

しかし、「生きている限り無条件で、日常生活費相当くらいをずっと支払い続けてくれる」という条件のお金があります。それが年金です。

長生きすれば納めた保険料以上の年金をもらうことになりますが、国が支給停止したり減額することはありません。民間の企業年金は長生きリスクに耐えられないので、10年ないし15年の有期年金で支払いをストップします。定期預金残高をコツコツ取り崩して長生きしたらゼロ円になるという可能性はありますが、年金支払いはストップしません。

実は国の年金については、給付額が減っても、死ぬまでくれる約束さえ国が守ってくれれば、我々にとっては「価値あり」の制度なのです。

●つぶれないが、減るは減る

「適当」というと「いい加減」なイメージがありますが、本来の言葉の意味は「適切に」です。「適当」に年金制度を理解するとしたら、

「潰れはしない」
「死ぬまでもらえるのがいいところ」
「しかし、減るは減る」

ということになります。

年金の受給開始年齢が上がっても、法律でその年齢まで働けるよう企業に義務づけされるので、心配はありません。「65歳から75歳まで国は無収入で生きろというのか」というようなミスリードにも踊らされないようにしてください。

さて、「減るは減る」ですが、受給金額は今より15%くらいカットされることは法律上決まっています。現在の標準モデルは夫婦で月22.1万円ですが、これが18.8万円くらいになる感覚です。とはいえ、女性も会社員であった夫婦の場合は年金額がもう少しアップします(現在の標準モデルで月30万円弱、減額後でも月25.5万円程度)。また、年金生活者は税金や保険料負担がぐっと下がりますので、国に引かれるお金は多くありません。住宅ローンさえ返し終わっていれば、食費や日用品を買って日々生活するのには足りるはずです。

国の年金は、最低限度の日常生活費くらいはなんとか保障してくれる、とイメージするといいでしょう。逆に言い換えれば、「自分でためるお金は老後に生活できないからではなく、余裕や趣味に回す予算確保のためである」ととらえてください。そのほうが貯める気も高まります。

それが、マスコミやネットが教えてくれない、国の年金制度に関する「ちょうどいい」「適当な」理解だと思います。
(文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表)

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