メルカリが提供する単発バイト求人サービス「メルカリ ハロ」。2024年3月6日に1都3県でサービスを開始し、4月16日に全国展開。5月末には登録者数が500万人を突破するなど、順調な伸びを示している。なぜこれほど人気なのか?
【写真で見る】QRコードでチェックインして仕事スタート。終了時にも同様にチェックアウトする
「メルカリ」アプリで利用できる強み
「メルカリ ハロ」が提供するのは、空き時間を利用して最短1時間から働くことができるスポットワーク(スキマバイト)。通常のアルバイトの場合、履歴書や面接などでの選考があるが、「メルカリ ハロ」では応募すれば先着順で仕事が決まる。
改めてアプリをダウンロードする必要はなく、フリマアプリ「メルカリ」の「はたらく」というメニューから操作ができる。メルカリのアカウントを使って手軽に応募できるので、サービスを利用するハードルが低い。
応募前に本人確認と顔写真の登録などが必要になるものの、すでにメルカリを利用していて登録済みの人は初回に確認事項をタップするだけ。
実際に「メルカリ ハロ」のページを見てみると、日付ごとに仕事の募集がズラリと並ぶ。その内容は飲食店、コンビニ、倉庫作業、配送、引っ越し、オフィスワーク、清掃などさまざま。エリアや始業時間帯、勤務時間から検索することも可能で、仕事内容を読み進めていくと興味がわいてくる。募集されている仕事には「未経験者歓迎」の文字も多く、働いたことがない業種や職種であっても、挑戦してみたいという気分にさせる。
そして自分に合いそうな仕事が見つかったらアプリから応募。その場で仕事が確定するので、うまく仕事がマッチングすれば、あとは当日、職場に向かうだけという手軽さだ。しかも働いた給与はすぐに振り込まれる。
40代以上の登録者が全体の約4割
メルカリが3月に実施したアンケートによると、「メルカリ ハロ」で勤務した登録者の6割以上がスポットワークを初めて体験。サービスを利用した理由としては、「メルカリユーザーで登録が簡単だったから」「メルカリのサービスで安心して使える」などの声が多く、改めてアプリをインストールしなくてもいい手軽さ、日頃から使っているサービスへの信頼度がうかがえた。
最大手の「タイミー」では10代~20代の若い人が過半数を占める(タイミー公式サイトより)のに対して、「メルカリ ハロ」は40代以上の登録者が全体の約4割を占める。幅広い年代が満遍なく利用するメルカリならではの結果と言えるだろう。登録者の3割以上が会社員や団体職員で、副業ニーズに対応しているところも特徴だ。
全国チェーンほか5万店舗と連携
4月16日に都内で開催された「メルカリ ハロ」 全国提供開始発表会」によると、全国展開に向けて「メルカリ ハロ」は、ドミノ・ピザを始め、ドラッグストアチェーンなど、全国各地の約5万店舗と連携。全国チェーンはもちろん、地域に根差したローカル店舗や中小事業者との連携を、今後さらに深めていきたい考えだ。
2040年には働き手が1100万人不足するというデータもあり、ドミノ・ピザでは、人材獲得の取り組みの1つとしてスポットワークを導入。「メルカリ ハロ」についても積極的に導入を決めた。
今回、「メルカリ ハロ」を利用して、ドミノ・ピザでスポットワークをする小泉香奈江さんに話を聞くことができた。小泉さんは現在、転職活動中で、次の仕事を探す合間に「メルカリ ハロ」を利用。「いつも使っているメルカリに“はたらく”というメニューを見つけて、やってみようと思いました。長期のアルバイトはできないので、スポットワークが働きやすい」と言う。
「いろいろなお店を経験できて、自分も楽しみながら働けるところがいいですね。働いたらすぐにお給料が確定して、翌日くらいには振り込まれるので、モチベーションが上がります。まだやったことはないのですが、夜に飲み会があったら、その時間までその街で働くという使い方もできそうだなと考えています」(小泉さん)。
小泉さんが働く様子についても見学させてもらった。勤務状況は店舗側が提示するQRコードをアプリで読み込んでチェックイン、チェックアウトすることで管理。それぞれの仕事の前に説明があり、スムーズに店頭の掃除や洗いもの、ピザの配達などの仕事を行っていた。
「お店ごとにルールや仕事のやり方は異なりますが、同じ業種であれば仕事内容が大きく変わるわけではありません。スポットワーク初日はとても不安だったのですが、お店の方が丁寧に教えてくれたこともあって、以降は不安なく働くことができています。どのお店も仕事の前にはちゃんと説明してくれますし、経験を積むごとに働きやすくなっています」(小泉さん)。
「メルカリ ハロ」では勤務終了後に給料がその場で確定し、登録している金融機関にすぐに振り込みが依頼される。将来的には、グループ会社のメルペイを通じて、メルカリの決済アプリ「メルペイ」での給与デジタル払いを実現する予定だ。
人員を確保しやすくなった
スポットワークではその都度、働きに来る人が異なる。それに対して、店側ではどのように感じているだろうか。今回、小泉さんが働いた「ドミノ・ピザ 西麻布店」の店長、星野亮さんにも話を聞いた。
「配達が初めての方には指導する時間をたくさん取るようにしています。ピザの配達を経験したことがある人には、すぐに仕事に取り組んでもらいます。さすがに在籍するクルーに比べると業務効率は劣るのですが、遜色ないくらいの人も来てくれて助かっています。
今はメルカリ ハロのワーカーの約半数がリピーターです。逆にうまく仕事をこなせなかった人は、おそらく本人もこの店は違うと思うのか、リピートはありませんね」(星野さん)
ワーカーが気に入ったお店を「いいね!」することもでき、お気に入りに登録した人は募集に気付きやすい。
「早ければ1週間先までの応募が埋まってしまう状況です。これまでは当日に欠員が出たら在籍するアルバイトに声をかけるのですが、埋められないことが多かったんです。その場合、最寄りの店舗にヘルプを頼むのですが、それも無理なら欠員が出た状態で営業するしかありませんでした」(星野さん)
市場が急拡大するスポットワーク
スポットワーク協会によると、2024年5月末時点のスポットワーク登録会員数は2200万人にのぼる。2023年3月末からの1年間では約510万人の増加だったのが、2024年3月末からの直近2カ月では約700万人も増加。その要因は、「メルカリ ハロ」が本格始動したことが大きいだろう。
スポットワークはスタートアップ企業の「タイミー」がサービスを開始した2018年から始まり、人手不足に悩む事業者の積極的な導入や、副業を認める企業の増加などによって市場が拡大。現在、最大手となるタイミーは、導入事業者が約9万8000社、登録者数約700万人に上る(2024年2月時点)。
このタイミーに迫るのが「メルカリ ハロ」だ。導入事業者は約5万店舗と少ないものの、サービス開始後わずか3カ月弱で登録者数500万人を突破するなど勢いがある。
スポットワークは「メルカリ ハロ」やタイミーのほかにもさまざまなサービスがある。中でも大きな動きとしては、2月1日に「LINEスキマニ」を提供するLINEヤフーとマイナビが業務提携し、営業や商品開発分野において連携。この秋にはリクルートが新たなサービス「タウンワークスキマ(仮称)」を開始することも発表している。
スポットワークの市場は、スキマ時間を活用して働きたいワーカーの多様な働き方の実現と、企業の人手不足解消を目指して、今後ますます拡大することが予想される。
綿谷 禎子: ライター