【外信コラム】赤の広場で
モスクワではこのところ、旧来の看板に飽きたらず、アスファルトの路面にスプレーで書かれた広告が急増している。地下鉄の駅を出れば、歩道には店や会社の名前、電話番号、道順を示す矢印などがひしめく。「○○レストラン→」「△△歯科→」「美容院□□」といった具合だ。
路面広告がここまで増えた最大の理由は、それが簡単で安いことだ。50~60センチ四方の型枠をくり抜き、人通りの少ない夜中、その上から路面にスプレー塗料をかけてまわるだけ。この分野に参入した零細広告会社は数知れない。1カ所あたりの料金相場は800ルーブル(約2200円)といい、それで人目を引けるのだから費用対効果は悪くない。
しかも、こんなゲリラ的な広告がロシアでは違法とはみなされていない。広告法は存在しても「路面」という広告媒体は想定されておらず、許可を取ったり、使用料を払ったりは必要ないのだという。誰が思いついたのか知らないが、「法の穴」を巧みに通り抜ける、実にロシアらしい広告手段だというほかない。
最近は景観の観点から路面広告を問題視する意見も出ているが、法を改正して規制するまでにはかなりの時間を要するだろう。当面は何より、足元に気をとられて転んだり、人にぶつかったりしないことが肝心だ。(遠藤良介)