たくさんのロケに、綿密な編集作業。現在のテレビ番組で当然のように行われている常識を根底から覆す番組がBSジャパンで放送されている。番組名は「バカリズムの30分ワンカット紀行」(月曜午後11時半)。担当するテレビ東京の伊藤隆行プロデューサーは、「たくさんのロケや、細かい編集を良しとする現在のテレビ業界で、編集を“放棄”した番組があってもいい」と狙いを語る。
■失敗したらやり直し
4月3日にスタートした散歩番組。ロケ場所のチョイスがシブく、初回は東京・西荻窪。その後は、谷中、下北沢、月島、学芸大学-と続く。
特徴は番組名の通り、「撮影にカットがかからない」こと。つまり、ずっとカメラを回しっぱなしなのだ。その街の昼と夜の違いを強調するため、さすがに映像の「早送り」だけは使用しているが、その間もカットはしない。ワンカットにこだわるため、「失敗したら最初からやり直し」という。
リアルな「ガチ散歩感」があるところも見どころ。カメラマンが歩くスピードでゆっくり映像が展開するため、その街にどんな店があり、どんな人がいて、どんな暮らしをしているのかが分かる。カメラマンが狭い路地ばかり通るため、視聴者は「こんな道、入っていいのかな…」というスリルも味わえる。
絶妙なタイミングで都合良く現れる地域住民や、明らかに台本があると思われるセリフ回しなど、スタッフによる「演技指導感」は少し気になるものの、それに対して司会のタレント、バカリズムと女優、内田理央が「劇団西荻窪だ!」などと的確に突っ込みを入れているのが面白い。他局の「編集が行き届いた散歩番組」と比べると、この番組は新鮮に映る。
■「その発想はなかった」
「僕が他のテレビ局のディレクターだったら、『やられた!』って思う番組ですよ。作り込まれているし、『その発想はなかった』という感覚です。自分が出る番組で、絶賛するのも何ですが…」
番組の初回収録後、バカリズムはこう感想を述べた。内田も、「(カメラマンが)ドアを開けるときに、自然と私も体が動いてしまって…(笑)。これ、(カメラマンに)感情移入しちゃいますね」と笑う。
テレビ東京系「モヤモヤさまぁ~ず2」など多くの人気番組を手掛ける伊藤プロデューサーだが、3月の番組改編説明会の際には、「正直言って、(『30分ワンカット紀行』は)全然自信ないですよ」と苦笑いしていた。だが、番組内でバカリズムが「いろいろな人からこの番組のことを聞かれている」と明かしたように、テレビの業界からの注目度はかなり高い。
制約が年々増え続けるテレビ業界。この番組のスタッフには、「自分たちが作りたい番組を作る」という自負があるようだ。
「スタッフの中には、『ノーギャラでいいから僕にやらせてくれ』という人もいます。『こんなテレビ番組をやってみたい』と、(作り手の)自分たち自身が思うような番組を、今後も作っていきたいですね」(伊藤プロデューサー)
BSジャパンによると、今後は東京以外の街もブラつく予定だという。そのうち、あなたの街にも出没するかもしれない。(文化部 本間英士)