ユダヤ教の経典、「旧約聖書」。そこには、ヘブライ人の歴史が膨大なエピソードとともに綴られている。考古学的見地からの研究や発掘調査によって、これが単なる神話ではなく、史実に基づいた事柄も含まれていることが次第に明らかになってきた。今回は、特に有名な「モーゼが”海を割った”」という奇跡のエピソードさえも、実際に起こった現象なのではないかとする最新の研究結果についてお伝えしよう。
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■”海が割れた”奇跡とは
紀元前13世紀ごろ、エジプトで奴隷として使役されていたヘブライ人たち。旧約聖書によると、彼らはモーゼに率いられてエジプトを脱出、約束の地「カナン」(現在のパレスチナ)を目指した。エジプトのファラオは、彼らを引き戻そうと軍隊を差し向けるが、有名な奇跡はここで起きた。モーゼが手を上げると”海が割れ”、道ができたのだ。ヘブライ人が渡りきったところで海は元に戻り、追いかけてきたエジプト人は溺れて死んだ――。
このエピソードが史実であるとは、にわかには信じ難い話だが、今月8日付の「ワシントン・ポスト」紙によると、すでに現代の科学が謎を解き明かしつつあるという。
■コンピュータで再現した結果……
研究を指揮したアメリカ大気研究センターのカール・ドレウス氏は、考古学的な手法と科学的な手法を用いて謎に挑んだ。まず氏は、”割れた”とされる「葦の海」について、紅海だとする説が一般的だったものの、これは誤訳によるものであり、実際はナイル川デルタ(三角州)北東部に存在したタニスという都市付近にできたラグーン(潟湖)であると考えた。
その上でドレウス氏は、様々なデータを用いて当時の地形状況や気候をコンピュータモデルで再現。東から強烈な風を吹かせると、嵐のようにラグーンの水面が波立ち、海水が西へと追いやられることを確認した。時間にして4時間程度だったという。また19世紀後半、エジプトに軍事介入した英国軍の記録にも、現地で強風が吹きラグーンの水が完全に無くなっていたとの記述が見られるという。さらに同様の現象は、エリー湖(北米大陸五大湖のひとつ)などでも観測されているとした。
■伝説と史実の関係
ドレウス氏の研究は、モーゼが”海を割った”エピソードが史実かどうか証明するものではない。しかし奇跡と思われた現象が、特定の条件下によって発生し得るということを明らかにした。来年1月30日、モーゼの活躍を描いた大作映画『エクソダス:神と王』も公開されるようだが、彼が”海を割った”エピソードを、完全なフィクションと言い切ることはできないのだ。
過去には、神話上の都市とされていた「トロイ」の存在を固く信じ、実際に遺跡の発掘に成功したシュリーマンの例もある。世界に伝わる数々の伝説には、その成立に現実の出来事が影響を与えている例が少なからず存在するのかもしれない。なんとも心ときめく話である。
※画像は「YouTube」より