東京電力福島第1原発事故による汚染牛肉問題の余波が収まらない。肉牛の出荷停止が8月末に解除された福島県では、汚染された稲わらを食べた疑いのある牛を抱える農家は事実上、出荷を止められた状態。出荷適齢期を過ぎた牛を全て買い上げる県の計画も行き詰まり、畜産農家救済への道のりは遠い。
「牛が死ぬのを待っているようだ」。原発事故後に収納した稲わらを全量食べさせた農家の男性(60)は牛の頭をなで、ため息をついた。国が県産牛の出荷停止を指示した7月19日以来、1頭も出荷できないでいる。
出荷停止解除を受けて県は、旧緊急時避難準備区域の牛や、汚染稲わらを食べさせた農家の牛を全頭検査する態勢を整備したが、汚染稲わらを食べた牛については出荷に「待った」を掛けているためだ。
ルール上は、出荷した牛が解体処理され、その肉が暫定基準値を超えた場合は廃棄すれば済む。県幹部は「基準を超える牛が出れば、福島産牛全体の市場価格がさらに暴落する」と指摘。「放射性セシウムは時間がたてば体から抜けるので、もう少し待ってほしい」と説明する。
肉牛が出荷に適した時期は月齢30カ月前後。県は解除前の7月28日、畜産団体でつくる協議会に10億円を補助し、出荷適齢期を過ぎた肉牛を全頭買い上げると発表した。政府による買い上げに難色を示した国に業を煮やしての措置だった。
対象は7月19日時点で生後30カ月超の和牛や27カ月超の交雑種などで、約1500頭と想定。ところが、これを大きく上回る2491頭の申請があり、今度は県の読みの甘さが露呈した。
県は、買った牛を売って、その売却益を元にさらに買い上げを進める“自転車操業”で急場をしのぐ方針だが、買い上げ自体が滞り、結局は農家にしわ寄せがいく形となっている。
先の男性の場合、13頭を申請したが、認められたのは7頭のみ。残る6頭は今後に回された。
「出荷にしても買い上げにしても、国や県は『やるやる』と言って全然やらない。“やるやる詐欺”だ」と男性は怒りあらわ。「県だけではなく、国も動いてほしいし、東電はもっとしっかりと賠償してほしい」と訴えている。