家電量販業界の巨人、ヤマダ電機は昨年末、同業大手のベスト電器を傘下に取り込み、一段と規模を拡大した。そのヤマダが同業の買収に先駆けて進めてきたのが、異業種のM&A。代表例が大阪を地盤とする住宅メーカーのエス・バイ・エルである。
■スマートハウスを強化
ヤマダはエス・バイ・エルを2011年に買収。山田昇会長の肝いりで、「スマートハウス」事業の強化を進めている。スマートハウスとは、太陽光発電システムや蓄電池などと、家電や住宅設備を組み合わせ、ITを使って家庭内のエネルギー消費を最適に制御する住宅のことだ。ヤマダは14年3月期にはグループで3000戸のスマートハウスを分譲することを目標としている。
ただ、その意気込みとは裏腹に、これまでの成果はイマイチ芳しくない。肝心のエス・バイ・エルの業績がパッとしないのだ。
エス・バイ・エルは今年度(13年2月期)の期初には売上高530億円(前期は変則決算のため単純比較できず)、営業利益12億円(同)を計画していたものの、今年1月時点で売上高413億円、営業赤字4.4億円へと下方修正。赤字転落する見通しになった。
ヤマダとのスマートハウス事業の提携効果を狙い、地区本部制の導入など組織体制を見直したが、狙い通りの機動力発揮となっていない。過去最大の規模で新卒社員を大量採用し、また賃貸へ本格参入するなど事業領域の拡大を図ったことで、先行投資負担が重くなり、前期に利益貢献した仮設住宅の剥落も響いた。
この事態に、ヤマダも黙っていられなくなったようだ。
エス・バイ・エルは1月、社名を「ヤマダ・エスバイエルホーム」に変更すると発表。さらに2月上旬には、積水ハウスグループを経て09年からエス・バイ・エル社長を務めてきた荒川俊治氏が退任し、後任に就くヤマダ取締役兼執行役員副社長の松田佳紀氏をはじめ、ヤマダ電機から非常勤も入れて計6人の役員・監査役を受け入れる人事など、経営陣の大幅刷新も打ち出した。いずれも5月28日に開催する予定の株主総会を経て実現する。
ヤマダはこの社名変更により、知名度の高いヤマダブランドを前面に打ち出すとともに、エス・バイ・エルの経営にも積極的に関与してスマートハウス事業における相乗効果の発現や、事業拡大を急ぐ姿勢を明確に打ち出したワケだ。
■次なる収益柱が必要
「住宅や電気自動車、太陽光、蓄電池、家電までをトータルで提供するのは、究極の家電ビジネス」というのが、山田会長の方針である。ヤマダに限らず、国内の家電量販店業界は、エコポイント特需の剥落やパソコンの不振など逆風が吹く。ガリバーのヤマダは縮む市場での熾烈な競争にも勝ち残るだろうが、次なる一手も必要となる。
エス・バイ・エルへの経営関与を強めるのは、新しい収益柱への育成をもくろむスマートハウスを早く軌道に乗せるためだ。ヤマダは過去にもダイクマやマツヤデンキ、サトームセンなど、買収した企業へ積極的に経営関与して、あとかたもなくその中身を変えてきた。今回のエス・バイ・エルについても規定路線である。
ただし、買収した企業の人材であっても、能力に応じて平等に扱うのもヤマダ流。ヤマダ・エスバイエルホームの社長に就く荒川氏は、マツヤデンキ出身だ。ヤマダの積極的な経営関与で、現エス・バイ・エルの企業風土は大きく変わる可能性がある。エス・バイ・エルで働く人材にとっては、サバイバルの幕開けである。