世界各地に店舗を持ち、売上高1兆円を突破したユニクロ(ファーストリテイリング社)が2013年夏、「世界最貧国」と言われるバングラデシュに進出した。その様子がテレビで放送されたのだが、そのマーケティング力に対し「大丈夫なのか!?」といった声が出ている。
11月17日、NHKでユニクロのバングラデシュ出店を取材したドキュメンタリー「成長か、死か~ユニクロ 40億人市場への賭け~」が放送された。
「女性が民族衣装しか着ない!」と発覚
現在、ZARA(スペイン)やH&M(スウェーデン)といったファストファッションブランドが世界中に次々と出店し、熾烈な競争を展開している。しかし、先進国の市場はすでに飽和状態だ。そんな中、ユニクロは今夏に「世界最貧国」とも言われるバングラデシュに店を出した。
同国に出店した理由は、柳井社長が「フロム・ダッカ・トゥ・ニューヨーク」というスローガンを掲げているからだ。最貧国バングラデシュの首都ダッカからニューヨークまで、世界にあまねくユニクロの商品を行き渡らせるという意味である。
人件費も安く縫製工場もたくさんある。世界で7番目に人口が多い国でもあり、いずれこの国の市場は大きく発展すると見込んだのだろう。
番組では、現地に乗り込んだ日本のスタッフが、なんとか店をオープンさせて軌道に乗せようとする様子に密着した。1号店はオープン前から200人以上が並ぶ大盛況で、すぐに2号店も出したが、しばらくして壁にぶつかってしまう。
現地向けに開発したイスラム風の女性服が売れない。日本の女性スタッフが半年かけて現地女性にリサーチを行い、好意的な反応を得ていたのにもかかわらず、全く売れないのだ。
「これはおかしい」と思い、さらにリサーチを進めた。するとバングラデシュの女性が、なんと「民族衣装しか着ない」ことが発覚したのだ。現地の女性にクローゼットの中を見せてもらうと、カジュアル服を持っていたのは10人中1人しかいなかった。
「えー本当に!? ほとんどカジュアルウェア持ってないってことなんだ」
と責任者はいまさら驚く。
「アフリカに靴を売りに行く」が現実になるか
日本にいる柳井正社長からは、民族衣装を自分たちで作ることを強い口調で提案された。しかし現地のスタッフは商機を逃さないよう、ひとまず現地で既成の民族衣装を仕入れて店舗で販売した。これから「可及的速やかに」自分たちで民族衣装を作る、ということだ。
その後、1号店が目標の売上を達成し、バングラデシュ進出も一定の成果を挙げた様子だった。しかし半年も前から市場調査をしていたのに、現地女性が民族衣装しか着ないし持っていないことを把握していなかった、というのはなんとも微妙だ。ネット上でも、こんな声が挙がっている。
「ユニクロのマーケって結構ずさんだな」
「寺に飛び込みで育毛剤のセールスするレベルw」
「まったく売れそうにない見当違いの戦略商品を半年掛けて開発販売してるユニクロがアホぽくみえた」
一方で、ユニクロのような企業はスピードが命とも言える。とりあえず進出して、問題があったら随時修正していく、というのもありうるやり方だろう。
ビジネスの世界には、「アフリカに靴を売りに行ったセールスマン」というたとえ話がある。現地の人が靴を履いていないのを見て、一人は諦めて帰国したが、もう一人は「全員が靴を履くようになれば、たくさん靴が売れる」と考えて成功を収める、という話だ。
「体力があるから損失先行の勝負ができる」という見方もあった。今後慣習が大きく変わり、カジュアル服の需要が高まる可能性がまったくないわけでもない。バングラデシュのユニクロ店舗に行ったという男性は、
「日本人も現地スタッフも、とても感じが良かった。特に現地スタッフの笑顔で挨拶が気持ちいい。他の店はこんな社員教育はしない。現場は頑張っとるよ」
とツイッターに投稿していた。「1勝9敗」という著書もある柳井社長のことだから、1敗くらいでへこたれることはないだろう。