ライブ配信が人気だ。YouTube LIVE、17LIVE、Mirrativ、SHOWROOM、ふわっちなどの多くのライブ配信サービスがあり、毎日のように配信する配信者も多い。2020年のライブ配信市場規模は500億円とも言われている。
「ライブ配信中にSMS認証が表示されていたことに気づかなかった。気づいたら、ゲームアカウントが乗っ取られていた」
「投げ銭をしてくれるリスナーとDMしていたら勘違いされて、最寄り駅で待ち伏せされた。突然、配信者名を呼ばれてゾッとした」
一方、ライブ配信によって、このようにアカウントを乗っ取られたり、ストーカー被害につながる事例が増えている。ライブ配信で起きるリスクと対策について解説したい。
SMS認証悪用で不正にアカウント作成
安全のため、多要素認証を設定している人は多いだろう。たとえばID・パスワードに加えて、スマホへSMSで送信された認証番号を入力する必要がある仕組みのことで、セキュリティーが高まるものだ。しかしこれをショルダーハック的に盗み見たうえで、SMS認証が必要なアプリのアカウントを勝手に作成する犯罪が起きている。
ゲーム実況など、自分のスマホ画面を映してライブ配信する人が増えている。2022年3月、神奈川県在住の高1男子生徒(16歳)が書類送検された。ライブ配信者のスマホにSMS認証をして画面に表示させることで、不正にフリマアプリのアカウントを作成。約300回にわたって不正なアカウントの作成を繰り返し、50万円ほど売り上げていたのだ。
昨年4月には、ライブ配信をしていた20代の男性が、悪用した人物に携帯電話の番号を特定されたうえ、勝手にアカウントを作成される被害にあっている。男性が利用していたサービスの運営会社では、同様の手口の被害が70件以上起きているという。
同様の手口で、アカウントが乗っ取られる被害も起きている。
2022年3月、ゲーム実況者の画面にSMS認証を表示させ、他人のアカウントを乗っ取ったとして、不正アクセス禁止法違反の疑いで無職男性(18歳)と男子高校生(16歳)が書類送検された。無職男性は乗っ取った約30個のアカウントで約20万円、男子高校生は約50個のアカウントを乗っ取り10〜20万円を得ていた。
このとき悪用されたのが、Twitterのパスワードリセット機能だ。Twitterのパスワードを忘れた場合、ユーザー名を入力すると、電話番号を設定している場合「末尾が○○の携帯電話にコードを送信」が選択できる。Twitterのユーザー名は公開されており、誰でも把握できる。これを入力することでSMS認証によるパスワードリセット、再設定が可能となり、ゲーム配信画面で確認すればアカウントを乗っ取ることができるのだ。
そのうえで、連携するゲームのアカウントも乗っ取ったというわけだ。アカウントさえ乗っ取れば、アカウント情報から電話番号も確認できてしまう。
なお、SMS認証が必要なサービスには、LINEやTwitter、メルカリやラクマなどのフリマアプリ、ポイントサイトやQRコード決済アプリなどがある。
Twitterなどで「SMS認証代行します」というアカウントを見かけるが、SMS認証は販売されていることがある。このように不正に作成されたアカウントは、マネーロンダリングなどに使われることが知られている。
「通知オフ」の徹底を、対策済みアプリも
対策として、ライブ配信時に通知が出ないように設定すると安心だ。このためには、いくつかの方法がある。
通知をオフにしようと思っても、忘れてしまうことがある。そこでiPhoneユーザー(iOS 15以降)の場合は、「集中モード」を活用しよう。オートメーションで特定アプリを起動したときには自動的に通知を出さないようにできる。設定→集中モードでアプリを選んで設定してほしい。
通知が出ないようにされているアプリもある。ゲーム実況などで使われるDiscordには配信モードがあり、OBS(配信ソフト)の起動中は自動的に通知が出ないようにできるのだ。
Mirrativでは、配信設定の中に「プッシュ通知隠し」がある。プッシュ通知が飛んできたときには、自動的に画面共有がオフになる仕組みだ。出てしまった通知は、「通知ぼかし機能」で読めなくするなどの対策が施されている。Android端末は「プッシュ通知隠し」をオンにしたうえで、サイレントモードなどを利用するといいだろう。
個別メッセージが配信中に表示されてプライバシーが流出、問題に発展して引退につながってしまった配信者もいる。このようなトラブル対策で多くのサービスが警告を出しているが、トラブルは続いている状況だ。
さらに進んで、プラットフォーム側で配信中はデフォルトで通知オフにしたり、通知を読めなくするなど対策すべきだろう。
距離感を勘違いした故の「ライバー殺人事件」
「『今、後ろにいるよ』とDMがきて振り返ったら、50代くらいのおじさんが笑って立っていた」
これは、NHK「ねほりんぱほりん」のライバー(ライブ配信者)の回で、ライブ配信者の女性が語った恐ろしいエピソードだ。「距離感が近すぎると誤解されるし、よそよそしくしすぎると怒り出す」ので、距離感が難しいという。
ライバーはリスナーと距離が近い。名前を呼ばれたり、人間関係ができるこのような距離感の近さが売りの一つとなっている。しかしそのため距離感を勘違いするリスナーもおり、ストーカー事案に発展することも珍しくない。
2022年1月には、「ライバー殺人事件」も起きている。埼玉県越谷市でライブ配信者の女性が、投げ銭をしてくれていたファンに殺されたのだ。配信者の女性とリスナーの男は事件前に一度しか会っていなかった。男は動機について、「女性にライバーと視聴者の関係に戻ろうと言われた。女性が他の男のものになるなら殺してしまおうと思った」と語っている。距離感を勘違いされたために起きた悲劇だったというわけだ。
「投げ銭をくれるから、ついついリスナーの言うことを聞いて、個別にDMしたり、お願いを聞いたり、直接会ったりしてしまうライバーはいる。でも、個別のやり取りをすると『恋人同士』と勘違いするリスナーが出てきて危険と実感した」と、冒頭で紹介した女性配信者はいう。
専業ライバーなど、生活のすべてをコンテンツ化するライバーは多いが、生活圏で配信するとストーカーされるリスクがある。配信は自室内限定にするなど、居場所や自宅が特定されないような配慮が必要だ。
また、投げ銭をされるとついリスナーに心を許して個別にやり取りしたり、直接会ってしまう配信者もいるが、危険な行動だ。DMやLINEなどの個別のやり取りはせず、コメント欄や配信内など公の場でのやり取りに留めること。くれぐれも直接会ったり、自宅を教えたりしないことが大切だ。
ライブ配信が一般化したことで、悪用する事例や、犯罪被害につながる事例が続いている。個人情報はしっかりと管理し、リスナーとの距離感をうまく保ちながら、安全に配信を楽しんでほしい。