民放ラジオ放送をインターネットで同時に流すサービス「radiko.jp(ラジコ)」が、昨年12月1日の本格スタートから1年を迎える。難聴取解消や若者の取り込みといった当初の狙いに加え、3月の東日本大震災後は災害情報を得るための手段としても注目され、存在感を高めた。一方で、対象地域外のリスナーからの不満など利用拡大への課題もあり、今後は有料による一部地域外配信も検討していくという。(草下健夫)
「ラジコのエリア制限解除のおかげで、被災地の友人の安否が分かりました」
震災後、ラジコを運営するradiko(東京都港区)のオフィスに九州の男性からお礼の電話がかかってきた。「当社の電話番号は一般に公表していないのに、直接お礼が言いたいとかなり調べてくれたようだ。身が引き締まる思い」と岩下宏社長は振り返る。
震災時に同社は関東と関西の計13局を、各放送地域に限って配信していた。配信地域の制限は、スポンサーの流すCMの事情が理由だが、震災直後からネットでは「ラジコは地域制限を取り払うべきだ」との声が多数上がった。「その通りと思った。非常時の情報ツールとして、一人でも多くの人に役立つことに意味がある」(岩下社長)と、3月13日から最大約1カ月、地域制限をなくす例外措置を取った。
4月末には、被災地の情報を全国各地の避難者に届ける目的で、被災4県にある7局の全国配信を特設サイト(fukkou.radiko.jp)でスタート。当初10月までを予定したが、「まだ復興もままならない状況」として来年3月末までの延長を決めた。
ラジコは既に日本民間放送連盟加盟のラジオ全100社に参加を呼びかけ、現在は48社54局(試験配信含む)が参加。来年4月初頭には70社超となる見込みという。リスナー層は従来のラジオより10歳程度若いことが調査で分かっており、「ラジコを聴けるスマートフォン(多機能携帯電話)のさらなる普及で、若者の間でラジオが盛り返すチャンス」と期待をかける。
リスナーからの要望で最も多いのが、地域制限の撤廃だ。岩下社長は「権利上の問題をクリアしつつ、そう遠くない将来に有料のサービスとして一部(放送地域外への配信)をやることも考えている」と明かす。
収益も課題で、現状ではラジオCMに連動した広告を画面に表示し、クリックで広告主のサイトが開く仕組みを試行している。ただ、岩下社長は「ラジコという媒体自体に元気を生むことがまず大切」と強調している。